障がい者で“いじめられっ子”だった岡部さん、世界選手権の日本代表選出までの軌跡

 ところで、岡部さんの自己ベストは200mでは22秒79、400mでは50秒39です。しかし、どんなに努力しても、耳の聞こえる選手にはかないません。ろう者にはスタートダッシュの音が聞こえず、どうしてもスタートで出遅れてしまうからです。

 ではスタートに合わせて光るシグナルも開発されていますが、非常に高額のため、すべての競技で使用されるわけでありません。このため、ろう者の陸上競技では、スタート時に黄色い旗を振る審判の様子を見た別の審判が選手の肩を叩き、それを合図に走り出すこともあります。

 岡部さんは耳にハンデはありますが、心身共に健康な一人の男性です。岡部さんの勤務先にはろう者の採用実績があり、理解ある上司や先輩にも恵まれました。競技生活を続けるためにもこの会社で骨を埋めたいと思っていましたが、転勤となりました。残業が多く、アスリート雇用ではない岡部さんはトレーニングとの両立が困難になってきたのです。会社員を続けるか、スポンサーを見付けて競技に専念するか、岡部さんの新たな苦悩が始まりました。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

●岡部祐介(おかべゆうすけ)さん

1987年(昭和62年)11月25日生まれ、秋田県由利本荘市出身。筑波技術大学産業技術学部を卒業。家族は両親と姉と祖母と猫(茶々丸)。

●鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュ協会を設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などでも活躍。