国産コロナワクチン・治療薬、有意性を確認できず行き詰まり…アビガン、アンジェス

富士フイルム富山化学
富士フイルム富山化学のサイトより

 新型コロナウイルスの治療薬になると期待されていた富士フイルムホールディングス(HD)の抗ウイルス薬「アビガン」が、厳しい状況に立たされている。カナダの開発協力企業が11月12日、新型コロナウイルス治療薬への転用を目指し米国などで実施した最終段階の臨床試験(治験)で「統計的な有意性を確認できなかった」と発表した。

 アビガンは富士フイルムHD傘下の富士フイルム富山化学が新型インフルエンザ治療薬として開発した抗ウイルス薬。細胞に入ったウイルスの増殖を抑える効果がある。新型コロナウイルスに対しても有効ではないかということで治験が進められてきた。

 富士フイルムはカナダの製薬会社アピリ・セラピューティクスを通じて米国などで治験を実施してきた。軽症から中等症のコロナ患者1231人に対して、偽薬を投与した場合に比べて症状が回復するまでの時間に違いがあるかを調べていた。だが、設定した目標に対して統計的な有意性を示せなかったとした。

 アピリ社は治験で有効性を示せれば、年内にも米食品医薬品局(FDA)にアビガンの緊急使用許可を申請する予定だった。だが、今回の結果によって、事実上、米国での実用化の道が閉ざされた。富士フイルムは「追加の詳細な解析データを待ちたい」とコメント。国内での開発は継続する方針だ。

 富士フイルムは新型コロナに転用するため20年3月に国内で治験を開始。同年10月、厚生労働省に製造販売の承認を申請したが、12月に「有効性の判断が難しい」として承認は見送られた。

 アビガンは“アベガン”と揶揄された。安倍晋三元首相がコロナ治療薬への転用に強い期待を示した政治銘柄だからである。国内での承認取得に向けて実施中の治験も、治験対象となる患者が少なく、終了のメドは立っていない。

 厚労省は今年9月、治験を支援するため14億7400万円の補助を決めた。治験に関する経費を下支えし、早期の実用化を促すということだった。これまで支援を受けた7社のうち、塩野義製薬の20億円に次ぐ金額の大きさだ。

「前のめりで後押ししてきた厚労省としても引っ込みがつかないのだろう」と専門家は指摘する。「本当に治療薬として承認を目指すつもりなら、海外の経口薬のように、確実に有効性評価ができる臨床比較試験を実施すべきだ」との指摘もある。

 富士フイルムHDの株価は医薬関連分野の業績好調を擁して9月16日に1万55円の上場来高値をつけた。しかし、アビガンのコロナ薬への転用の道が事実上、閉ざされたことの株価への影響は大きく、11月24日には一時、9118円(11月22日終値と比較して238円安)まで下げた。11月30日の終値は8931円(前日比89円安)。とうとう9000円の大台を割り込んだ。

アンジェス

 新型コロナワクチンとして期待されているアンジェスも苦戦している。アンジェス創業者で大阪大寄付講座教授の森下竜一氏が「期待する効果が得られなかった」としたため、同社の株価は11月8日、マザーズ市場でストップ安(100円安)の407円と崩落した。年初来安値は11月9日の358円だ。21年の年初来高値は1月12日の1375円だから高値から74%下げたことになる。11月30日の安値は398円。終値は402円(前日比14円安)だった。

 アンジェスは大阪大と共同でDNAワクチンを開発してきた。これは実用化されているコロナワクチンとはまったく別のタイプで、ウイルスのたんぱく質をつくるDNAを使う。20年6月に治験を開始し、当初は「国産ワクチンで最速で実用化」と騒がれたが、現在も最終段階の治験に進めていない。「DNAワクチンはメッセンジャー(m)RNAワクチンに比べて発熱や倦怠感が出にくく、安全性が非常に高い」(森下氏)との触れ込みだった。

 DNAワクチンは国産ワクチンとして最も早い時期に治験が始まった。治験を実施する大阪市立病院での審査委員会を通過する前に、治験日程や治験の対象者について吉村洋文知事が会見で公表。吉村知事は実用化の時期を「20年9月」と発言したことから吉村知事ご推奨のワクチンと呼ばれるようになった。

 アンジェスの大株主構成を見ると、SBI証券が第2位で、松井証券が第4位、野村證券も第8位だ。創薬ベンチャーとしては珍しくないが、アンジェスは営業赤字が続いており、黒字転換のメドも立っていないが、それでもワクチン開発への期待で株価は相対的に高止まりしてきた。今回の治験の仕切り直しで株価は妥当な水準まで下げることになるとみられている。コロナワクチン、治療薬には政治的な要素が加わる余地が大きい。政治家の発言でバイアスが掛かると、思わぬ方向に行ってしまうことがある。

(文=編集部)