泉田議員の裏金告発、音声公開でも「断定できない」巧妙な会話と地方政治の慣習

泉田裕彦衆議院議員(「首相官邸HP」より)
泉田裕彦衆議院議員(「首相官邸HP」より)

 元新潟県知事の泉田裕彦衆議院議員が暴露した、星野伊佐夫新潟県議会議員による裏金要求疑惑。「2000万や3000万出すのにもったいながったら、人生終わるよ。いちいち警察に報告してやるわけじゃないんだから」との会話が公開されると、「事実無根だ」と語っていた星野県議は「全部思い出した」と前言を翻した。

 会話の中で、泉田議員が広島で起きた河合夫妻の買収事件について触れると、相手は「そんなこと言ったらきりがない」と答えている。国会議員が地元の政党に政治活動として“寄付”をするケースは多々ある。しかし、選挙期間中にこの行為をすると、公職選挙法に引っかかってしまう。

“金が渡される議員”の条件とは

 グレーゾーンな世界について、ある市議会議員はこう語る。

「僕ら(=市議会議員)に直接的な金銭が下りてくることは、あまりないよ。あるとしたら、地元で大きな力を持っている県会議員と関係性の深い議員だね」

 早い話、選挙のたびに大物議員の世話になり当選しているため、候補者の応援や演説会への出席要求を断れなくなるという図式だ。

 10月の衆議院議員選挙前、引っ越して間もない私は、この議員から現住所を聞かれた。同時に、同じ選挙区内に住む、同じく引っ越した応援仲間の住所も知らせた。支援してくれる有権者に「応援のハガキ」を送るためだ。

 数日後、地元の駅前で開かれた演説会に、その議員も出席していた。知名度のある国会議員が応援演説に駆け付けることもあり、駅前は黒山の人だかりであった。

 私が応援している前出の市議会議員は、こうした関係性をあまり好まない。それでも、次の選挙で受かるためには断れないのが議員である。有力者と対峙した際、ニコニコしながらも目が笑っておらず、コロナ前の酒席で酔うこともなかった。ある会合の後、こんなセリフをこぼしていたのを覚えている。

「あいつはあまり好きじゃないんだ。どちらかといえば消極的応援だな」――この言葉を受けて、聞いてみた。

「金銭が渡されたことはありますか?」

 少し間を開けて、議員は「僕にはこないよ」と答えた。「俺の支援者は普通の一般市民だよな。金が渡されるのは、地元でそれなりの企業を経営している議員だ。建設業界など、特にそうだろ」

 つまり、まとまった票が見込める「イエスマン議員」が優先されるのだ。支持者に好かれているその議員は、4期連続で当選している。決して上位にはならないが、安定して票を集めている。ただ、支持者が高齢化していることもあり、近年はこうした会合に積極的に参加している。公選法により献花は出せないが、支持者やその家族の葬儀にも、できる限り出席している。

「裏金と断定できない」巧妙な会話

 次に、公開された泉田議員と星野県議の音声についても聞いてみると「この音声が本人か否かはわからないが、裏金と断定できる言葉を発していないのがキモだね」と答えてくれた。

 また、こうも付け加えてくれた。

「大学時代の友人には、国や県、市を問わず、政治家になっている仲間が少なくない。同窓会などで顔を合わせたときに、有力議員との関わりについて聞くと、都会の議員よりも地方の議員に関係性を保つ議員が多い」

 地元との関わりが強い地域ほど、こうした慣習は残っていると思われる。

「あの音声が公開されたことで、今後、選挙で云々というケースは減るだろう。学生時代の仲間と異なり、いつ何時、関係性が壊れても不思議ではないのが政界だ」

 政治家同士の付き合いはつくりやすいが、壊れもしやすい。誰もがトップを目指す魑魅魍魎の世界である。今回の一件がそうであるように、乾杯しても互いに目が笑っていないのが、議員という人たちである。

(文=平田隆久/政治ライター)