業界最大手なのに非上場、赤字の東急ハンズ買収…カインズ、強さの秘密は変な経営

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カインズの店舗(「Wikipedia」より)

 ホームセンター最大手のカインズ(埼玉県本庄市、非上場)は3月31日付で東急不動産ホールディングス(HD)の子会社で雑貨店チェーンを展開する東急ハンズ(東京・新宿区、同)を傘下に組み入れる。買収額は200億円超とみられる。

 東急ハンズは1976年の創業。ホームセンター(HC)業界で独自の地位を築いてきた。多くのHCが郊外に大型店舗を構えているのに対し、東急ハンズは渋谷、新宿などの都心部の店舗が中心だ。DIY用品のみならず雑貨の品揃えが豊富で若者文化の発信基地となっていた時期もある。

 郊外型のHCはコロナに伴う巣ごもり需要の恩恵を受けた。都心型の東急ハンズはコロナ禍の直撃を受けた。インターネット通販の普及やコロナ禍の外出自粛で業績が悪化、21年3月期の連結売上高は前期比35%減の631億円、営業損益段階で44億円の赤字(20年3月期は2億円の黒字)に転落した。プライベートブランド(PB)の比率が低く、バイヤーの目利きに頼る経営だっただけに逆風には弱かった。21年10月には老朽化が進む主要店の池袋店を閉鎖するなど収益改善を急いでいたが、親会社の東急不動産HDはグループ内で事業価値を高めることは難しいと判断。売却に踏み切った。

 カインズは群馬に本拠を置くベイシアグループの扇の要(かなめ)の1社だ。ベイシアGは土屋嘉雄氏が1958年、群馬県伊勢崎市で服地店として創業した「いせや」をルーツとする。主要6社を中心に28社で構成されている。

 食品スーパーのベイシア、ホームセンターのカインズのほか、アウトドア衣料チェーンで急成長中のワークマンを擁し、ワークマンが唯一の上場会社である。グループの店舗数は1946店、売上高は1兆320億円(22年2月末時点)。年商1兆円を超える小売りグループは10社未満だ。イオン、セブン&アイホールディングス、ファーストリテイリングといった知名度の高い上場企業のなかで、株式を上場していないベイシアGは異色の存在だ。

 売上規模が最も大きいのがホームセンターのカインズだ。21年2月期の売上高は4854億円。DCMホールディングスの4711億円(21年2月期)、コーナン商事の4420億円(同)を上回り、ホームセンター業界でトップだ。嘉雄氏はグループ各社が互いに競争して独自性を競う「ハリネズミ経営」を標榜してきた。グループ企業同士が出店用地を取り合うことも是としてきた。M&A(合併・買収)に頼らず、グループ各社が独自性を磨きながら尖ることを徹底してきた。

 こうした大きな流れから見ても、東急ハンズの買収はイレギュラーに映る。カインズの高家正行社長は21年12月22日に開いた会見で、「これまでカインズでM&Aはしてこなかった。市場が飽和するなかで、単純な規模拡大を追求しないというのが基本だ。(東急ハンズに関しては)買収というよりパートナーとして迎え入れた。家事や料理をきっかけにカインズに来る。困りごとを解決するために東急ハンズに行くようにしたい。両者が連携し、より良い暮らしを根付かせたい」と抱負を語った。東急グループを離れたため、東急ハンズという店名を変更する可能性もある。

 ベイシアGがM&Aに経営の舵を切ったことは間違いなく、東急ハンズのM&Aが経営戦略の大きな転換点になる。

「IT小売業」を目指す

 19年、カインズとワークマンの会長を退任した嘉雄氏は現在、グループ全体の舵取りを担う。替わって嘉雄氏の長男でカインズ会長を務める土屋裕雅氏が経営の第一線に立つ。ベイシアGは持ち株会社を持たないため、裕雅会長が実質的なグループのトップと位置付けられている。