EV急失速の当然の理由…「脱EV推進・エンジン車に回帰」の可能性を検証

 実はEVへの転換が進んでいるとされる欧州ですら、いまだに新車販売の8割がエンジン車となっている。2月8日付日本経済新聞記事によれば、欧州市場の22年から23年にかけてのEV販売の伸びは2.5ポイントであるのに対し、HV(HEVのみ)のそれは3.1ポイントとHVのほうが上回っている。また、23年の新車販売に占めるHVの比率は33.5%なのに対し、EVは14.6%にとどまっている。そしてガソリン車の占める比率の下落率は縮小傾向にあり、22年から23年にかけては1.1ポイントの下落にとどまり、23年時点でも新車販売の35.3%を占めている。そして、エンジン車とハイブリッド車を合計した「エンジン搭載車」の比率は同年時点で82.4%に上るのだ。

 こうした世界市場の変化を受け、自動車メーカーも方針転換をあらわにしている。30年に完全電動化をするとしていたメルセデスベンツはこれを撤回し、新型エンジンの開発に着手。GMはプラグインハイブリッド車(PHV)の生産再開の検討に入ったと伝えられており、ミシガン州の工場での電動ピックアップトラックの生産拡大の延期を発表している。そして大きなニュースとなったのが、アップルのEV開発からの撤退だ。アップルは2010年代の半ばから完全自動化機能を搭載するEV「アップルカー」の開発に取り組んでいたが、先月に中止が明らかとなった。

踊り場を迎えたEV販売

 なぜ、ここにきてEV失速が顕著になっているのか。自動車評論家の国沢光宏氏はいう。

「まだEVには不便な点が多いものの、所有することによるメリットのほうが大きい地域では売れています。表面的な販売台数だけを見て『失速している』と伝える報道や解説が目立ちますが、『行き渡るべき人には、ひとまずは行き渡った』ため、いったん踊り場を迎えているというのが現状ではないでしょうか。たとえば欧州の一部の国では、企業がカンパニーカーとして社用車を購入して社員に通勤用として貸与する制度があり、政府はカンパニーカーとしてEVを購入する企業に補助金を出しています。欧州におけるEVの主な購入者はカンパニーカー利用を想定する企業であり、この制度を利用する企業にはいったんEVが行き渡ったため新規購入が減るのは当然です。ちなみに補助金がないスペインのEV普及率は日本と同じくらい低いです。

 また、米国の都市部につながる高速道路は通勤時間帯の渋滞が激しく、EVなど特定の種類の車両だけ走行可能なカー・プール・レーンがあり、EVだとガラガラの車線を走れるという理由でEVを買う人が一定数いる。そういうニーズで買う人には、ひとまず行き渡ったため米国でも販売が落ち着き始めた。なので米国では都市部以外ではEVはあまり売れていません。

 一方、中国は安価なEVを製造する自国メーカーが多数出てきており、順調に販売が伸びています」

 今後、世界市場ではEV推進の流れが失速し、エンジン車回帰の動きが進む可能性はあるのか。

「二酸化炭素(CO2)排出量の削減は日米欧をはじめとする先進国政府が取り組むべき絶対的な命題として掲げており、EV普及を推進させていく政策に変更はないでしょう。各国政府が完全電動化する目標として設定している年が後ろ倒しになるなど若干の修正はあるかもしれませんが、新しい技術の実用化と価格低下が進むのに伴い将来的にEVが主流となっていく流れは変わりません。たとえばトヨタは革新的なバイポーラ型リン酸鉄リチウム電池を26年に実用化する計画ですが、実現すればEV普及の大きな起爆剤になると予想されます。

 もっとも、日米欧や中国以外の国では今後もエンジン車は残るので、その領域では引き続きトヨタが優位に立ちます」

(文=Business Journal編集部、協力=国沢光宏/自動車評論家)