京都が「ディープテックの聖地」になる…「行政×スタートアップ」の化学反応

 それに関して今の課題は、大学やシーズはたくさんあっても、ビジネスサイドの方々が首都圏に集まっているといるので、事業化して成長させるところが弱いということです。例えば、こういうニーズを抱えている人がいるから、その方にはこのシーズが使えそうだということを見出して事業化するビジネス人材が足りていないわけです。そういう人材をうまく京都に呼び込むことがまず必要かなとも思っています。例えば、ベンチャークリエイト型のVCであるとかインキュベーターの知見を京都に呼び込むとか。そして、最終的には京都で生まれて京都に定着できるような環境を整えていければいいですね。

 ただ、海外から見れば日本市場はそれほど大きくないし、新しいものを取り入れるのに慎重な国民性もある。ビジネス環境として日本で事業化を進めるメリットを感じてもらえないのではないかと思ったりもしますが、京都ぐらいの規模だからこそ特区制度などを使った規制緩和や、社会受容性向上のための住民理解の促進なども含め、どうすれば新たな技術やサービスがいち早く導入できるのかを考えたりもします。この分野なら京都は世界でどこよりも社会実装が早くできそうだというモデルが1つでも出せればいいですね。そうすれば、さらに世界からも注目される都市になれるので、今年から検討を始めて、向こう何年間でこのモデルを出していく構想を持っています。

――スタートアップを盛り上げるために、国内で他自治体との連携はありますか。

中原氏 2020年から国は、「世界と伍するスタートアップ拠点都市」を全国で数か所選定し、集中的に支援して育てていくとしています。京都は大阪・兵庫とともに「京阪神」として選ばれています。それまでも情報連携はありましたが、選定されてからはもう1つの主体として京阪神でスタートアップ支援には取り組んでいます。ディープテック系の成長環境を整えていくということも大阪や兵庫と合意して進めています。大学のコンソーシアムも今は関西圏で構築して、関西のシーズとしてどういうふうに事業化するかを考え実践しています。

 特にグローバルプロモーションについては関西一丸で取り組みましょうっていうのがあります。京都から海外に打って出られる段階にあるスタートアップは、600社の中でも限られていますが、それが京阪神で集まれば、それなりのボリュームになります。そうすると海外の投資家の関心を惹きつけやすくなると考えています。

京都独自のスタートアップエコシステム

 中原氏の言葉からは、京都府が「IVS」を単なるイベントとしてではなく、京都の産業構造そのものを変革し、未来を創造するための戦略的な一手として捉えていることが明確に伝わってくる。大学や研究機関が持つシーズを核とした「ディープテック」という圧倒的な強みを軸に、IVSが呼び込んだVCや、今後さらに呼び込もうとしているビジネス人材が融合することで、京都は「知」と「事業化」が高速で循環する、独自のスタートアップエコシステムを築こうとしている。

「完成された街」ではなく、常に変化し、関わる一人ひとりの手によって未来がつくられるように、行政が旗振り役となりながらも、多様なプレイヤーを巻き込み、有機的に成長するエコシステムを目指している。

「起業家の方々を応援することで社会が変わる」という中原氏の信念は、まさに行政が果たすべき新たな役割を示唆しているのではないか。IVSを起爆剤とし、京都が「ディープテックの聖地」として世界にその存在感を示す日は、そう遠くないかもしれない。古都が放つ、新たなイノベーションの光に期待が高まる。

(文=横山渉/ジャーナリスト)