「ITERに必要な機器については既に開発が終了しており、その知財は参加している各国が共通で持っている。機器開発でここまで進化したので次のフェーズに行ってもいいのではないかということで、アメリカやイギリス、中国などは、自国でこの事業を推進している。つまり、むしろここから先は民間及び産業の力を使って進めたほうがいいという考えだ」(中原本部長)
核融合というエネルギー分野でも、国と国との競争が本格化してきた。
昨年11月、日本でも民間主導で核融合発電の実証プロジェクト「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」が始動した。国内外の多数の研究者や企業が参画しており、京都フュージョニアリングがリーダーとして立ち上げ、現在は新会社のStarlight Engine社が推進している。「核融合反応から熱を取り出し発電」という核融合エネルギーの早期実用化の鍵となる発電実証を、政府が掲げる2030年代に行うことを目指す。成功すれば世界初だ。
核融合発電を実現するには、大まかに言って「核融合反応を起こす」工程と、その下流にある「熱をエネルギーとして取り出す」工程の2つが必要だ。プラズマを発生させて核融合反応を起こすことだけでなく、エネルギー変換や燃料の増殖分離など複数の技術が必須であり、それらが整わなければいわゆる発電はできない。ITERや海外のプロジェクトの大半は「核融合反応を起こす」工程の研究開発に注力している。
ITERや「JT-60SA」などで採用しているのは「トカマク型」と呼ばれる方式の核融合炉だが、真空容器には東芝、トロイダル磁場コイルには三菱重工や古河電気工業ほか、中心ソレノイドコイルには三菱電機や日鉄エンジニアリングほか、というように多数の日本企業が関わっている。
京都フュージョニアリングが創業以来力を入れてきたのは「熱をエネルギーとして取り出す」工程で、その理由は核融合発電の産業としての広がりを考えているからだ。実際、プラズマ加熱装置であるジャイロトロンシステムを開発し、イギリスの核融合実験装置にも採用されている。
「核融合反応自体はすでに起こせているが、それを安定して効率よく持続させるようITERや各国の機関で研究している。また、トリチウムに関わる燃料システムのようにエンジニアリング技術としてとても重要な領域があり、その部分を当社では取り組んでいる」(中原本部長)
核融合発電には超伝導コイルの技術が不可欠だが、リニアモーターカーを数十年にわたって開発してきた日本は、真空容器製造技術と併せて技術的に優位な立場にある。
アメリカは40年代の商業化を目指し、中国も実験施設の建設を進めている。日本は国際競争に勝てるのか。あと何年で自宅のコンセントから「核融合で作られた電気」が使えるようになるのか。中原本部長に率直な疑問をぶつけたところ、「商用炉にはもう少し時間がかかるというのが正直なところ」と返ってきた。
「京都フュージョニアリングの立ち位置では、商用炉への展開を早めるために各社が取り組んでいないプラズマ”以外”の領域の開発を加速している。プラズマのところは“速いスピードで実現するプレイヤーと組んで実現したい”と考えている。
一方で、FASTはこのプラズマと京都フュージョニアリングの領域をつなげるプロジェクトでもある。京都フュージョニアリングが技術開発に取り組む熱の取り出しから発電につなげるプロセスを組み合わせば、それが発電実証としては最速になるだろう。これが当社の考えるシナリオで、結果として2040年代にいわゆる商用炉まで持っていくことを目指したい。実現すれば、日本に産業を呼び込むことができ、国益にも貢献できると考えている」