「解体工事の発注経験がある人はほとんどいません。だからこそ、不安を払拭し、安心できる仕組みをつくることが最大の価値になる。そこにテクノロジーと仕組み化の余地が大きくありました」
クラッソーネの大きな特徴は、自治体との積極的な連携だ。現在、152の自治体と協定を結び、横浜市・札幌市・神戸市など政令指定都市にも広がっている。
「多くの自治体には空き家相談窓口がありますが、実際に解体工事まで伴走する仕組みは整っていません。クラッソーネがその役割を担うことで、行政サービスを補完できるのです」
自治体にとっても、放置空き家の解消は大きな課題。そこにスタートアップがテクノロジーとネットワークを提供することで、公共と民間の協働モデルが生まれた。これは他の社会課題領域の起業家にとっても示唆に富む事例だろう。
プラットフォーム型ビジネスには「鶏と卵問題」がつきまとう。顧客がいなければ業者が集まらず、業者がいなければ顧客も集まらない。
川口氏はこう振り返る。
「最初はとにかく一社一社、丁寧に口説いて登録してもらいました。業者さんからすれば『また変な仲介サービスかもしれない』という警戒も強かった。でも、実績と口コミが積み重なるにつれ、『違法業者と一緒に比較されたくないからこそ登録する』という動機が生まれてきたのです」
登録業者数が増え、信頼できる施工事例が可視化されると、顧客の利用も増加。顧客が増えることでさらに業者の登録が加速する。こうしてネットワーク効果が回り始め、成長フェーズに入った。
クラッソーネの挑戦からは、スタートアップ経営者にとって多くの学びが得られる。
(1)ニッチに見える市場を掘り下げよ
一見小さな市場に見えても、社会課題に直結していれば大きな成長ポテンシャルがある。
(2)レガシー業界の「不」を解消するDXは強い
不透明さや非効率をテクノロジーで可視化し、信頼を生み出すことで大きな付加価値を提供できる。
(3)自治体や既存プレイヤーを巻き込め
社会課題ビジネスは単独で広がりにくい。公共や地域プレイヤーと協働することで一気にスケールする。
(4)プラットフォームは“信頼の積み重ね”で回り出す
初期の登録者・利用者の信頼を勝ち取ることが、後のネットワーク効果につながる。
川口氏は最後に、今後の展望についてこう語った。
「解体はゴールではなく、地域の再生のスタートです。更地になった土地をどう活用するか、建築や不動産、リノベーションへと広がっていく。その入口としてクラッソーネが機能することで、まち全体の循環が生まれると考えています。」
解体という一見地味な領域を、社会課題の解決と事業成長の両輪で挑むクラッソーネ。そこには「スタートアップが社会インフラになる」という未来像が見えてくる。
(文=UNICORN JOURNAL編集部)