●この記事のポイント
・羽田・成田空港はインバウンド急増で容量不足の懸念があり、茨城空港が「第3の国際空港」として注目されている。
・しかし茨城空港は規模が小さく、成田の不足分を担うには限界があり、受け皿としては地方空港の役割も重要となる。
・空港戦略は容量拡大だけでなく、オーバーツーリズム対策や地方分散を含めた観光政策と一体で進める必要がある。
東京の空の玄関口である羽田空港と成田空港。日本の空の需要を支える両空港は、急増するインバウンド需要に対応し、すでにキャパシティの限界が迫っているとささやかれている。こうした状況のなか、「首都圏第3の国際空港」として、茨城空港の活用が浮上している。
本当に茨城空港は、将来の日本の空の需要を支える「第三の選択肢」となり得るのだろうか。航空経営研究所主席研究員の橋本安男氏への取材に基づき、首都圏の空港が抱える現状と、茨城空港の将来的な可能性、そして日本全体の空港戦略について考察していく。
●目次
まず、首都圏の空の現状を見ていこう。
羽田空港は年間発着回数50万回と国内線を中心にほぼ上限まで活用されており、これ以上の余裕はほとんどない 。一方、成田空港は年間発着回数30万回(2025年10月以降は34万回)のキャパシティに対し、2024年度の実績は25.5万回で、まだ余裕がある状態だ 。この余裕は、旅客数に換算すると約1,500万人分に相当する 。
しかし、政府が掲げる「2030年にインバウンド6,000万人」という高い目標を達成するためには、成田空港のさらなるキャパシティ拡大が不可欠だ 。成田空港では現在、B滑走路の延長とC滑走路の新設工事が本格的に進められており、2029年3月の供用開始をめざしている 。これが実現すれば、年間発着回数は50万回に達するため、当面は問題なく運営できると見込まれている 。
ただし、この拡張計画には不確定要素も存在する。用地買収が全体の2割弱残されており、交渉が難航すれば供用開始が2030年以降にずれ込む可能性も十分に考えられる 。もし工事が遅れた場合、インバウンド需要が急増すれば、一時的に成田空港のキャパシティが不足する事態も起こり得るのだ 。
このような状況のなか、将来の容量不足に備えるため、茨城空港の活用が議論されている 。
茨城県は、茨城空港を「首都圏の第3の国際空港」とブランディング戦略の一環としてアピールしている 。このキャッチフレーズに偽りはないが、その実態を知ると、成田空港の容量不足を補う主要な「解決策」にはなり得ないことがわかる 。
茨城空港は、自衛隊の百里飛行場と滑走路を共有する「共用空港」として、2010年に開港した 。開港当初は自衛隊により「離陸は1時間に1回」などの運航制限が課せられていたが、現在は解除されている 。
最も大きな課題は、その規模だ。茨城空港は、当初の想定利用者数81万人、国内線は小型機(リージョナルジェット)の使用を前提に設計された 。そのため、2024年度の利用者数が78万人になった現在でも、すでにターミナル内は混雑し、空港としてのキャパシティは限界に達している 。
2024年度の国内空港における国際線年間旅客数ランキングを見ると、成田・羽田の両空港だけで日本の国際線旅客全体の5割以上を占めている 。茨城空港は国際線旅客数で約7万人弱と、成田のわずか0.2%に過ぎない 。この数字からもわかるように、茨城空港は現状、他の主要な国際空港とは規模感がまったく異なるのだ 。