こうしたなかでHelical Fusionが選んだのが「ヘリカル型(ステラレーター)」だ。岐阜県の核融合科学研究所、その前身にあたる京都大学や名古屋大学を含めると約70年研究が重ねられてきた方式で、世界最大級の実験装置「LHD(Large Helical Device)」で実証が積み重ねられてきた。
「ヘリカル型は、他方式が抱える致命的な欠陥を持ちません。特に大きいのは“安定性”です。磁場をねじれたコイルで作ることで、プラズマを自然に閉じ込められる。トカマク型のようにプラズマ自体に流す電流を制御し続けなくても、いったん起動すれば安定して燃焼を維持できます」
吉村氏によれば、商用化のためには3つの条件を満たす必要がある。
1.定常運転 ― 365日24時間、安定して電気を出し続けられること
2.正味発電 ― 入力した以上の電力を外部に供給できること
3.保守性 ― 短期間のメンテナンスで高い稼働率を維持できること
「ヘリカル型は、この三要件を唯一、すべて満たせる方式だと考えています。特に保守性については、他の方式は必ずしもメンテナンスまで見通せているものばかりではないなか、私たちは“実用発電”を見据え、最初からこの視点を重視しています」
核融合の実用化は、単なる技術革新にとどまらない。日本にとっては国家戦略に直結する。
「日本はエネルギー資源の8割以上を輸入に頼っています。核融合が実用化すれば、他国から燃料を輸入せずとも高効率なエネルギーを確保できるので、エネルギー自給率を一気に引き上げられる。ひいてはエネルギーを輸出する立場に転換できる可能性もある。これは国家の安全保障にとって極めて重要な意味を持ちます」
再生可能エネルギーも注目されているが、天候や立地に依存するため安定的なベースロード電源にはなりにくい。核融合こそが、持続可能で安定した電源の切り札となる。
核融合研究は長らく「科学」の領域にあった。どうすれば核融合反応が起きる条件をつくって保持できるのか、その基本的な仕組みを解き明かす段階である。しかし吉村氏は「ヘリカル型はすでに科学的な段階を超え、工学フェーズに入っている」と強調する。
「プラズマを1億度以上に加熱し、安定して維持することはすでに実証済みです。残る課題は、いかに効率よく発電に結びつけるか、そして商用炉として経済性を持たせるか。この段階は“サイエンス”ではなく“エンジニアリング”です。日本のものづくりの強みが生きる領域に、ようやく核融合が到達しました」
Helical Fusionは、核融合科学研究所の研究者たちとビジネス人材が中心となり、「「国によって実用化直前まで進められた研究を引き継いで、社会に還元する」という強い使命感から誕生した。
「豆電球1つを点ける実験にとどまらず、商用化して人類の歴史の転換点をつくる」。私たちはそのために会社を立ち上げました。ゴールは明確で、“人の役に立つ電源”をつくること。その実現に向けて、情熱を持って挑んでいます」
夢のエネルギーを現実のものとするために世界が多様な方式で核融合の商用化を目指すなか、Helical Fusionは日本独自の研究成果を起点に、「実用発電」という明確なゴールへと挑戦を続けている。日本発の技術が、地球規模のエネルギー構造を変える日も遠くないかもしれない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)