例えば、会社法では、少数株主権として、先ほどの株主総会の議題や議案の提案権だけでなく、株主総会議事録、取締役会議事録や株主名簿の閲覧謄写請求権なども規定されています。本来ならばこれらの権利行使を通じて株主と経営陣が対話をしていくことが想定されているところ、アクティビズムの過激化では、権利行使をすることで世間の注目を集めることが目的になってしまっているのです。
この問題の難しさは、インフルエンサーに限らず、本当の資本市場のプロフェッショナルであるアクティビストファンドであっても、同様の行動を選択することがあることです。世間の注目を集めたほうが対象会社の株式の売買出来高は増えますし、ファンドの知名度が高くなれば当該ファンドへの出資希望者も増えるという事実もあります。
――今後SNSを使ったアクティビズムの過激化が進むかもしれないと。
小松氏 そのおそれはあります。私自身も近年も株主総会のプロキシーファイト(委任状争奪戦)に関わった経験がありますが、明らかに実現可能性が乏しい業績目標を掲げたり事実と異なる誹謗中傷をしたりする事例が増えています。その際には情報発信の手段としてSNSが活用されます。現行制度では、仮に委任状勧誘規制違反があったとしても、決議の方法が「著しく不公正」でなければ株主総会決議は取消が認められません。
背景には、従来の法制度がSNS時代に対応していないという問題があります。インフルエンサーによって株主総会や委任状争奪戦の過激化が進んでも、十分に制御できる法的枠組みが整っていないため、現状では効果的な抑止が難しいのです。
――インフルエンサーによるアクティビズムは、従来の「モノ言う株主」といわれるファンドと似ているところがありませんか。
小松氏 確かに「モノ言う」点では似ていますが、リーガルコストをきちんと払っているかどうかは異なります。アクティビストファンドはインサイダー規制を含めて関連法令を熟知したうえでコミュニケーションを図り、コストを払いながらリターンを出しています。
一方、個人のアクティビストは、多くの場合はリーガルコストを払っていないので、弁護士が入っていたら真っ先に止められるようなことも平気でしている。インフルエンサーも商売としてやっているのであれば、やはりそこはプロフェッショナルとして片手落ちでしょう、という感じは否めないですね。
――誹謗中傷が許容できないラインを超えてきたと感じたとき、会社はどのような対処をすればよいのでしょうか。
小松氏 リスクマネジメントのさまざまな案件をこの10年ほどやってきて、プロフェッショナルな弁護士の先生ともよく話すのですが、結論を言うと「気持ちのいい選択肢はだいたい間違っているよね」ということです。
例えば、迷惑系YouTuberから誹謗中傷をされて炎上したりすると、やっぱり焦ってすぐに反論したくなりますよね。しかし、多くの人の注目を集めることが目的である彼らからすれば、反論なんかしたって喜ぶだけなんです。情報が正しいか間違いか、なんていうことは論点ではない。
だから、ムカついた気持ちを晴らすために言い返したくなるところをグッとこらえて、アクションを取る前に「このやり方は、いろんなステークホルダーの目から見て本当に正しいんだろうか?」と確認することが大事だということです。
ステークホルダーに「なんでこんなことで延々と裁判やってるんだろう?」と思われたら、会社の評価は下がります。第三者の客観的な目線や時間軸を長めに取った目線で対応を考えることが、危機管理コンサルタントのアドバイスになります。