京都と滋賀を誤認して報道で注目、「Grok」とは?小さなミスに隠れた大きな課題

 ポジティブな声としては、「ニュースの背景を短時間で理解できる」「ChatGPTより砕けた言葉遣いで親しみやすい」などが挙がる。

 一方で、「政治的に偏った回答をする」「特定人物への批判的表現が多い」との懸念も出ている。

 企業の広報担当者やメディア関係者の間では、Grokの回答を「参考情報として見る分には有用だが、公式情報には使えない」という慎重なスタンスが主流だ。とりわけ、AIが生成するニュース要約や記事を社内文書やプレスリリースの下書きに使う場合、出典・真偽の確認は必須である。

「倫理フィルターの緩さ」は武器かリスクか

 Grokのもう一つの特徴が、倫理的制約の少なさだ。ChatGPTやClaudeは「差別的・暴力的・政治的に過激な発言」を避けるよう設計されているが、Grokはそうしたフィルターを極力緩めている。

 これにより「本音を話すAI」「マスク流の自由主義的AI」として人気を集めているが、同時に誤情報や中傷的発言を含む投稿を再構成してしまうリスクが高まる。AI倫理の専門家はこう分析する。

「AIが“倫理的に正しい発言”だけをする世界が良いのかという問題提起としては面白い。しかし、Grokのように発信の自由度を優先すると、AIが“責任なき発信者”になる危険がある。社会がどこまでそれを許容するかが問われる」

 一方で、Grokのリアルタイム分析能力は、マーケティングや広報分野での活用余地が大きい。企業や自治体がX上のトレンド・感情変化を即座に把握できれば、炎上リスクの予兆検知やキャンペーン戦略の最適化に役立つ。

 また、GrokのデータをAPI経由で活用することで、政治・経済の「空気感」を定量化する新しいデータ分析の試みも進んでいる。

 あるデジタルマーケターは次のように語る。

「人間が一日かけて調べるSNS反応を、Grokなら数秒で構造化してくれる。誤情報の混入リスクはあるが、“定性的データを即定量化するAI”としては非常に魅力的です」

 京都と滋賀の誤記は、AI時代の情報流通の本質的な課題を浮き彫りにした。AIが膨大な情報を一瞬で処理し、ニュースとして提示する時代には、「誤情報を出さない仕組み」よりも「誤情報を出した後の修正力」「透明なプロセス」のほうが重要になるのかもしれない。

 Grokの自由さは、生成AIの可能性を広げる一方で、信頼という名の“人間の監督”を不可欠にしている。AIが“語る”時代に、私たちは何を信じ、どう使いこなすべきか――。その問いは、今まさに現実のものとなっている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)