●この記事のポイント
・池袋にヤマダ・ヨドバシ・ビックが再び集結。体験型店舗や複合モール構想で家電量販店が復権へ。
・EC時代にリアル店舗が「動画・SNS・ライブコマース」の拠点となり、販売戦略が逆転。
・各社が競争よりも共存を選び、池袋を「家電と観光の街」として再定義。都市型商業の転換点に。
池袋駅周辺が、再び家電量販店の戦場と化している。
ヤマダデンキ、ビックカメラ、ヨドバシカメラ??日本を代表する家電量販3強が、相次いで池袋駅周辺に新店舗・大規模リニューアルを仕掛けているのだ。EC(電子商取引)全盛の時代に、なぜ今あえて「リアル店舗」に注力するのか。そこには、単なる販売競争を超えた“都市型商業の再定義”が進んでいる。
●目次
9月、池袋東口にヤマダデンキの大型店「LABI1 LIFE SELECT池袋東口」がグランドリニューアルオープンした。従来の「量販型」店舗とは一線を画し、コンセプトは“体験型”。店舗内には実際のリビングやキッチンを再現し、ソニーやパナソニックなど各メーカーの最新製品を「生活空間の中で」試せる構成となっている。
例えばリビングゾーンでは、ソニーのテレビとBOSEのスピーカー、日立のエアコンを組み合わせたホームシアター体験が可能。スタッフがAIスピーカーで照明や音量を操作するデモも行う。「製品を“買う場所”ではなく、“暮らしを体験する場所”にしたい」(ヤマダ広報)という構想のもと、ライブ配信を通じた商品紹介や、ライブコマース連携も始まった。
「これは単にECに客を奪われた家電量販店の”延命策”ではなく、むしろ店舗を“動画スタジオ”として活用し、SNSやECへの流入を促すハブ機能として再定義しているといえます。つまり、リアル店舗がオンライン販売の“起点”となり始めているのです」(戦略コンサルタント・高野輝氏)
今回の“第2次家電戦争”の引き金を引いたのは、ヨドバシカメラの動きだ。同社は今年、西武池袋本店内への大型出店を発表。詳細はまだ明かされていないが、業界関係者によれば「百貨店の上層階を大胆にリノベーションし、“百貨店×家電”の複合モールにする構想」が進んでいるという。
「背景にあるのは、ヨドバシが近年展開してきた“ヨドバシタワー構想”です。秋葉原や梅田などでも見られるように、家電だけでなく、書店、飲食、ホテル、そして物流を一体化させる戦略です。西武池袋という都内有数の立地に進出することで、観光・宿泊・ショッピングを一気通貫で体験できる都市型拠点を目指している可能性が高いです」(同)
百貨店が苦戦するなかで、ヨドバシとの連携は西武にとっても“救いの一手”だ。百貨店が担ってきた「リアルの上質体験」を家電の分野に転用することで、新しい来店価値を創出する。その象徴的な一手となりうる。
長らく家電量販店は“ショールーム化”が進んでいた。来店客が商品を確認した後、最安値を検索してECで購入する――そんな構図が業界の悩みだった。
しかし、今起きているのは、その“逆転”だ。体験型店舗の進化によって、店舗そのものが「SNS的な拡散装置」へと変化している。ヤマダのライブ配信やヨドバシの複合施設構想のように、リアルな接点が「動画」「SNS」「インバウンド」に拡張され、顧客とのタッチポイントが無限に広がっているのだ。