
●この記事のポイント
・出前館が実質「配送料無料」戦略を拡大し、7期連続赤字の中でシェア拡大を狙う。LINEヤフー経済圏との連携が鍵に。
・ウーバーイーツも黒字化に苦戦。配送コスト・報酬構造の負担が重く、普及しても利益が出にくい「構造的赤字」産業に。
・今後はAI活用やスーパーアプリ化で効率化を図りつつ、出前館・ウーバーイーツ・Woltの「2.5社体制」への淘汰が進む見通し。
コロナ禍を経て日本社会に定着したフードデリバリー。しかし、その舞台裏では“儲からない便利さ”の代償が続いている。出前館は7期連続赤字のなかで「配送料実質無料」を打ち出し、ウーバーイーツも儲かっているとはいいがたい構造を抱える。なぜデリバリー業界は拡大したにもかかわらず、どこも利益を上げられないのか。ビジネスモデルの限界、戦略の違い、そして生き残る企業の条件を探る。
●目次
出前館は2025年11月から、東京都内の一部エリアで“店頭価格と同額”でのデリバリーを本格化した。参加店舗は700店超。実質的に「配送料ゼロ」という構図だ。背景にあるのは、7期連続赤字(2025年8月期も最終赤字)という苦しい経営状況だ。
それでも値下げに踏み切る理由は、利用頻度の増加による中長期的なシェア拡大を狙ったものだ。LINEヤフー傘下にある強みを生かし、「LYPプレミアム会員(LINE・Yahoo!プレミアム統合サービス)」の特典として、配送料無料を定常化する案も検討されている。プラットフォームを“生活インフラ化”する戦略だが、短期的には利益をさらに圧迫することになる。
出前館は2022年度に赤字額が過去最大(約250億円)を記録。以降はコスト削減で改善傾向にあるものの、いまだ黒字化の道筋は見えていない。
一方のウーバーイーツは、国内で圧倒的なブランド力を持つ。だが、運営元のUber Eats Japanは非上場であり、財務状況は公表されていない。参考となるUber Japan(ライドシェア等を含む)の2024年12月時点の黒字はわずか53万円。日本市場全体で「ギリギリ黒字」と推定され、ウーバーイーツ単体では赤字の可能性が高い。
米国本社の決算でも、ウーバーイーツ部門の利益率は全体の数%にとどまっており、「利益なきシェア維持」が日本でも続いているとみられる。ドライバー報酬・店舗手数料・配送料割引の三重コスト構造が、採算を圧迫している。
さらに日本特有の課題として、「人件費上昇」と「都市部以外での需要薄」がある。地方では一件あたりの配達距離が長く、配送効率が悪化。都市集中モデルが利益を削る結果となっている。
menuはKDDI系列で通信基盤と連携しつつも、全国的な展開スピードではウーバーや出前館に及ばない。Woltはフィンランド発の北欧ブランドでデザイン性やカスタマー体験に優れるが、都市部限定でスケールの壁に直面。ロケットナウも一部エリアにとどまり、全国競争には加われていない。
つまり、「大資本による囲い込み」+「利用者の定着化」によって、後発組が入り込む余地は小さい。国内市場では事実上、出前館とウーバーイーツの二強構造が定着したといえる。
「デリバリー業界が赤字から抜け出せない理由は明快です。