●この記事のポイント
・フジ・メディアHDは広告回復と動画配信・不動産事業の伸長により業績予想を上方修正。財務体質も業界最高水準で、再成長の兆し。
・地上波依存から脱却し、「配信×IP×不動産」の三本柱による経営転換を進行。守りのコスト削減から選択的成長フェーズへ。
・広告市場の再構築と若手主導の制作改革により、フジテレビは“放送局”から“メディア総合商社”への変革を目指している。
フジ・メディア・ホールディングス(以下、フジHD)は11月10日、2026年3月期連結業績予想を上方修正した。営業損益は従来予想より15億円改善の105億円の赤字、最終損益は185億円の黒字へと転じた。経営不祥事に伴うCM出稿減など逆風が続くなか、動画配信事業やIP(知的財産)ビジネスが堅調に伸びたこと、さらに広告収入が想定以上に回復したことが主因だ。
とはいえ、フジテレビ単体では依然として厳しい。2025年度上期の売上高は前年同期比47.5%減の606億円、最終損益は301億円の赤字。キー局最下位とされてきたテレビ東京HDが同期間に売上799億円、純利益49億円を確保したことと比較すれば、単体ベースでのフジテレビの地盤沈下は明らかだ。それでも、連結ベースでは売上減は1%にとどまり、グループとしては一定の持ちこたえを見せた。
●目次
広告市場は長らくテレビからネットへシフトしてきた。電通の「日本の広告費」(2024年版)によれば、テレビメディア広告費は前年比97.8%、一方でインターネット広告費は前年比113.4%と拡大を続ける。
それでも、フジの広告出稿が回復した背景には二つの要因がある。
「第一に、地上波の広告信頼性。企業にとってコンプライアンスリスクを避けたい局面では、SNSや動画広告よりも『一定の編集基準を持つテレビ』に出稿するほうが安全だと判断する傾向が再び強まっています。
第二に、タイムCM(番組連動型)の回復。特にドラマ枠やスポーツ中継枠では、リアルタイム視聴が維持されており、ブランド訴求効果を重視する広告主の戻りが見られます。
ただし、単価の回復には時間がかかるので、キー局の広告営業関係者からは『枠自体は埋まりつつあるが、単価は以前より1~2割下げざるを得ない』との声も聞きます。フジの黒字化は、売上回復というよりコスト削減による“守りの黒字”であることを踏まえる必要があります」(戦略コンサルタント・高野輝氏)
フジHDのなかで、明るい材料とされているのが動画配信とIP活用だ。
「同社の動画配信サービス『FOD』は、会員数が2024年度に300万人を突破。売上は前年度比で2桁増を維持しており、TVerとの協業で広告型(AVOD)とサブスク型(SVOD)のハイブリッド収益モデルを強化しています。
また、ドラマやバラエティ番組の海外向けフォーマット販売、人気コンテンツの二次利用(舞台化、グッズ化、YouTube配信)が増加。かつて“お台場発のヒットメーカー”として君臨したフジが、知的財産を再定義し収益化するフェーズに入ったといえます。
特に2025年以降は、生成AIを用いた自動翻訳・字幕生成が進むことで、アジア市場への番組展開コストが急減。TBSがすでに中国・タイ・フィリピン向けに進出しているのに対し、フジは東南アジアを中心としたフォーマット輸出を強化しています」(同)