
●この記事のポイント
・JPYCが金融庁から日本初のステーブルコイン発行ライセンスを取得。円と相互交換できる「真のデジタル円」が誕生し、決済・送金・投資の在り方が大きく変わろうとしている。
・前払い式電子マネーとは異なり、ステーブルコインは円に戻せる「電子決済手段」。USDCなど世界標準と接続することで、日本円が国際金融ネットワークに参加する道が開かれた。
・外為手数料の削減、即時決済、AIエージェントによる自動支払い、給与払いへの応用まで──岡部社長は「ステーブルコインを使わない企業は生き残れない」と語る。
日本の金融インフラに、いわば“黒船”が到来した。JPYC株式会社が金融庁のライセンスを取得し、日本初の「償還可能なデジタル円(ステーブルコイン)」を発行できるようになった。
従来のプリペイドとは異なり、日本円とデジタル円の双方向交換が可能。さらに、世界で巨大シェアを持つ米ドルステーブルコイン「USDC」と同規格での発行を実現し、国際的な資金移動の世界に日本円が“参戦”する。
それが、どれほどの意味を持つのか。ステーブルコインとは何か。銀行送金や越境ECはどう変わるのか。なぜスタートアップのJPYCが最初の許可を得られたのか。
本稿では、岡部典孝社長へのインタビューを交えながら、決済の未来を読み解く。
●目次
インタビューに入る前に、最低限押さえておくべき基礎だけ簡潔に整理したい。
(1)「現金に戻せるか」で“法的に別物”
前払い式電子マネー(Suica、PayPayなど)
→ 一度チャージすると原則現金に戻せない。閉じたプラットフォームでのみ使用可能。
ステーブルコイン(電子決済手段)
→ 円やドルと価値を1:1で維持しつつ、いつでも法定通貨へ償還できることが法律で義務付けられている。
つまり、“デジタルで動く現金”という位置づけだ。岡部氏は「“デジタル円”という表現が一番的を射ている」と語る。
(2)「閉じた世界」か「国境をまたぐ世界」か
既存の電子マネーは国内の加盟店ネットワークに依存するが、ステーブルコインはブロックチェーンを介して国境を超えた即時送金が可能。
越境EC、貿易、投資、AIエージェントの自動支払い??。新しい経済活動のインフラになり得る。

●日本に本当のデジタル円が誕生した瞬間
――まずは金融庁ライセンス取得、おめでとうございます。何が最も大きく変わりますか?
岡部氏:「ありがとうございます。最大の変化は、『真の意味でのデジタル円』が日本で初めて発行されるようになったことです。これまでの前払い式JPYCは日本円に戻せませんでしたが、今回のライセンスでいつでも円に戻せる“電子決済手段”としてのJPYCが使えるようになりました」
さらに、世界規格との接続も大きいという。
岡部氏:「私たちは米サークル社(USDC発行体)から世界で最初に出資を受けました。今回のJPYCはサークルと同じ規格で発行しています。つまり、日本円・米ドル・ユーロのステーブルコインが、ブロックチェーン上でシームレスに交換できる世界が開くんです」
●USDCとの連携は“日本の鎖国を終わらせる”
――USDCなど海外コインの取扱いも広がると聞きました。自社発行と競合しませんか?
岡部氏:「むしろ逆です。相互運用(インターオペラビリティ)が鍵なんです。
サークル社は機関投資家向けに“ステーブルコイン中心の新しい金融インフラ”を構築しています。ここに円のステーブルコインが入ることで、ブロックチェーン上で“ゼロ秒決済のFX”が可能になる」