エヌビディア「技術無償公開」の衝撃…半導体王者の禁断の一手と中国勢の現実的脅威

 結果としてエヌビディアは、「米国からは売れと言われ、中国からは買うなと言われる」という板挟みの立場に置かれている。

 市場関係者はこう見る。

「中国市場が完全に戻ることは考えにくい。仮に輸出できても、かつてのようなシェアを回復するのは現実的ではありません」

 この厳しい環境下で、エヌビディアが選んだ生存戦略が「技術の無償公開」だ。Nemotron関連技術を開放する狙いは明確で、開発者を“エヌビディア環境”に縛りつけることにある。

 ソフトウェアを無料にしても、それを動かすGPUやサーバーが売れれば収益は確保できる。これは、OSを無償提供してハードで稼ぐ、あるいはクラウド利用を拡大させる、プラットフォーマー型ビジネスの王道でもある。

 岩井氏は次のように解説する。

「ファーウェイは年間3兆円規模の研究開発費で、ハード・ソフト・クラウドを一体化させています。エヌビディアが対抗するには、クローズドな独占よりも“使われ続ける前提”を作るしかない」

トランプ政権との「蜜月」が招く“脱エヌビディア”の加速

 一方で、この戦略は新たな火種も生む。トランプ政権との接近や中国ビジネス継続は、米国内のテック大手から「抜け駆け」と受け取られかねない。

 実際、グーグルは自社開発チップ「TPU」を急速に進化させ、AI開発の内製化を進めている。Metaも同様に、エヌビディア依存を下げる動きを強めている。

「皮肉なことに、エヌビディアの支配力が強すぎたために、米国内で“脱エヌビディア”の動きが正当化されている。これは長期的なリスクです」(同)

 技術の無償公開は、エヌビディアが追い込まれている証拠なのか。それとも、新たな覇権の布石なのか。答えはまだ見えない。

 ただ一つ確かなのは、AI半導体市場が「性能競争」だけでは語れない段階に入ったという事実だ。米中政治、オープンソース戦略、クラウド覇権――それらが絡み合う中で、2026年以降の市場は消耗戦の様相を強めていく。

 王者エヌビディアは今、初めて「守りながら戦う」局面に立たされている。その選択が覇権の延命となるのか、それとも転落の序章となるのか。半導体業界は、歴史的な転換点を迎えている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)