スタンフォード大学が公表した「AI Index 2025」によれば、米中トップモデル間の性能差は、2023年時点の約17.5%から、わずか1年で0.3%(MMLU基準)にまで縮小したという。
特筆すべきは、性能そのものよりもコストパフォーマンスだ。同等の性能を、より少ない計算資源で実現する中国勢のモデルは、企業導入の現場で強烈な訴求力を持ち始めている。
「性能差はほぼ消えた。今や選定基準は“どのモデルが安く、自由に使えるか”に移りつつある」(同)
こうした流れの中で、沈黙を続けてきたOpenAIも、ついに方針転換を余儀なくされた。
2025年8月、OpenAIは突如としてオープンウェイトモデル「GPT-oss」を公開。2019年のGPT-2以来、守り続けてきた「原則非公開」という方針を、事実上部分的に撤回した。
背景にあるのは、企業向け市場で急拡大する「プライベートAI」需要だ。
「機密情報をクラウドに上げたくない」
「自社業務に最適化したAIを、自前で制御したい」
こうしたニーズに対し、ブラックボックス型APIモデルは限界を迎えつつある。すでにオンプレミス市場では、Qwenなど中国勢が存在感を高めており、OpenAIとしても手をこまねいてはいられなかった。
「GPT-ossは“理想のオープン化”ではなく、“防衛的な選択”だ」(同)
次なる主戦場は、人間の知能を超えるとされるAGI(汎用人工知能)だ。AGIの実現には、モデル設計以上に、天文学的規模の学習データが必要とされる。
ここで浮上しているのが、米国政府内での異例の議論だ。「中国の物量作戦に対抗するため、米テック企業同士が学習データを共有すべきではないか」という声が、一部で現実味を帯び始めている。
これは、競争原理を前提とする資本主義の原則を揺るがしかねない“禁じ手”でもある。それほどまでに、中国の「国家規模のデータ収集 × オープン戦略」は、米国に強烈なプレッシャーを与えている。
「特定企業のAPIに依存する構造は、もはや経営リスクそのもの。ベンダーが方針転換すれば、業務システムは一瞬で機能不全に陥る」(同)
中国が「オープン戦略」で米国1強体制を切り崩す時代は、すでに現実となりつつある。日本企業が直視すべきなのは、特定のAIベンダーへの一本足打法の危うさだ。
今後、AIエージェントが社内業務を自律的に代行する時代、その「脳」にあたるモデルを誰が支配するのか。それは単なるIT選定の問題ではなく、経営の主権そのものに関わる。
オープンウェイトモデルを理解し、活用し、必要に応じて切り替えられるアーキテクチャを構築できるか。特定の国、特定の企業に依存しない「第三の道」を歩めるかどうかが、10年後の競争力を左右する。
AI覇権の地殻変動は、すでに始まっている。問われているのは、どのモデルを使うかではなく、誰が主導権を握るのかだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)