特に象徴的なのが、デジタルブリッジの買収だ。AIモデルの優劣は数年で入れ替わる可能性がある一方、電力・通信・データセンター需要はAIが進化するほど膨張する。
「孫氏は“夢想家”と見られがちですが、足元では非常にリアリストです。最悪の場合でもキャッシュを生む事業を必ず押さえている」(同)
市場が最も警戒しているのは、投資対象そのものではない。その資金調達構造だ。
SBGは、Arm株や過去の成功投資で得た株式を担保に、レバレッジを効かせた資金循環を続けている。「株価上昇 → 担保価値拡大 → 借入 → さらなる投資」という循環は、上昇局面では圧倒的な破壊力を持つ。
財務規律の番人とされる後藤芳光CFOは、LTV(純負債/保有資産)25%未満を繰り返し強調してきた。しかし、担保資産の価格が高止まりしていること自体が前提条件である点は否めない。
「形式上のLTV管理は機能していますが、実態としてはマーケット依存度が極めて高い。株価が崩れた瞬間、状況は一変します」(同)
株価4割減という市場の反応は、「このアクセルは踏み過ぎではないか」という投資家からの無言の警告とも読める。
さらに厄介なのは、OpenAIを取り巻く競争環境だ。グーグルの「Gemini」は急速に性能を高め、AI業界ではOpenAIが“絶対王者”でなくなる可能性が現実味を帯びている。
もしOpenAIの評価額が下落すれば、SBGのバランスシートは直撃される。Arm株の調整、AI関連株の下落が重なれば、担保価値の毀損という最悪の連鎖も起こり得る。
「孫氏の“錬金術”は、上昇相場では天才的ですが、下落局面では凄まじい速度で逆回転するリスクを内包しています」(同)
マイクロソフトを上回る資金をOpenAIに投じた今、SBGはもはや引き返せない。ルビコン川は、すでに渡った。
それでも孫正義氏は、おそらく迷っていない。「金魚になりたくない」という言葉は、彼自身に向けた宣言でもあるからだ。
2026年は、孫正義という投資家の最大の検証期間になる。彼は再び“未来を先取りした天才”として評価されるのか。それとも、資産インフレに賭けすぎた投資家として語られるのか。
その答えは、AIの進化以上に、マーケットの冷酷な現実が突きつけることになるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)