こうした構造変化を最も象徴しているのが、北海道だ。
ニセコ、富良野といったスノーリゾートには今冬、スキーやスノーボードを目的とした中国人観光客が殺到している。彼らが求めているのは、かつての「爆買い」ではない。
世界的にも評価の高いパウダースノー、温泉、食、滞在体験――いわば「日本でしか得られない価値」だ。
北海道の宿泊業関係者は語る。
「価格を下げなくても、選ばれる。むしろ高くても“納得して泊まる”お客様が増えています。量より質への転換が、ここ数年で一気に進んだという感覚があります」
結果として、全国的に見ても客室単価は上昇傾向にあり、春節期間の強気な価格設定が成立している。
2月の春節を境に、インバウンド需要は数値上、V字回復を遂げる可能性が高い。しかし、今回の回復が突きつける現実は、決して明るい話だけではない。
団体客を大量に受け入れ、薄利多売で回してきたモデルは、政治リスクが表面化するたびに大きく揺さぶられる。一方で、欧米豪やアジア諸国、中国の個人富裕層を見据え、高付加価値化を進めてきた施設は、価格競争に巻き込まれずに済んでいる。
「“中国が戻ったかどうか”という問い自体が、もう本質ではありません。重要なのは、どの中国客を、どの価格帯で、どう受け入れるか。ポートフォリオの分散ができているかどうかで、明暗ははっきり分かれます」(湯浅氏)
確かに、中国客は戻ってきた。だが、それは以前と同じ中国インバウンドではない。
政治リスクに左右されにくい個人客、体験価値に対価を払う層、そして「安さ」ではなく「理由」で選ばれる地域と施設――。今回の春節は、日本の観光業が量の成長から質の成長へと本当に舵を切れるのかを試す、重要な分岐点となる。
春節の狂騒曲は一過性の回復ではない。それは、日本の観光業が「中国頼み」から脱却し、真に自立できるかどうかを映し出す、静かな試金石なのである。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)