宿泊税の議論は、しばしば「客離れするかどうか」に収束する。もちろん無視できない論点だ。だが、国際観光の現場では、宿泊税の有無そのものが旅行需要を決定づけるケースは多くない。
旅行者が評価するのは総額であり、そして体験価値である。
・宿泊税を払っても「街がきれい」「移動が便利」「混雑が制御されている」なら納得される
・宿泊税が安くても「汚い」「危ない」「移動が不便」「住民が観光客に苛立っている」なら評価は下がる
観光都市が問われているのは、宿泊税を“収入”として見るか、“投資原資”として見るかだ。
「旅行者は税そのものより、払った結果として何が改善されるかを見ています。説明責任があるのは自治体で、宿泊事業者に負担を押し付ける設計だと、長期的には地域全体が損をします」(湯浅氏)
宿泊税は「1人1泊いくら」という定額方式が主流だった。しかし、2026年以降は「定率課税(宿泊料金の○%)」を採用する動きが注目されている。
沖縄県が導入を目指す“定率制”は、物価上昇や宿泊単価上昇に連動しやすく、自治体側から見れば安定財源になりやすい。一方で、宿泊料金が高い高級宿ほど負担が増えるため、宿泊業界からは慎重論も出やすい。
また東京都も制度見直しを予定しており、大都市部で定率化が進めば、全国の制度設計にも影響する可能性がある。
ここで重要なのは、宿泊税が「観光財源」から「観光ルール」へと変わりつつあることだ。課税は単なる金額の問題ではなく、地域がどんな観光を望むかの意思表示になる。
宿泊税は、自治体にとっては財源確保の手段であり、住民にとっては生活環境を守るための防衛線でもある。しかし宿泊事業者にとっては、徴収業務の負担と説明責任が重くのしかかる。旅行者にとっては、旅の総額を押し上げる要素であると同時に、観光地の質を測る指標にもなる。
つまり宿泊税は、誰かが得をして終わる制度ではない。設計を誤れば反発と疲弊を生み、地域の魅力を損なう。だが、透明性と投資が伴えば、観光都市の持続可能性を支える武器になり得る。
鍵は明確だ。
(1)使途の透明化(見える化)
(2)宿泊事業者の徴収負担の軽減(標準化・システム統合)
(3)住民が納得できる生活環境改善の成果
(4)旅行者が“払う価値”を感じる体験価値の向上
2026年、日本が「観光大国」として成熟できるかどうかは、宿泊税という“痛みを伴う仕組み”を、都市経営の成長エンジンに変えられるかにかかっている。
観光で稼ぎ、観光で壊れ、観光で修復する。この循環を構築できた自治体だけが、次の時代の勝者となる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)