治体がここまで強硬に宿泊税導入を進める背景には、観光地の“コスト構造”が変質したことがある。
(1)ゴミ対策:観光客の生活ゴミを住民税で処理する歪み
観光客が落とすゴミ、放置される食べ歩きの容器、あふれる公共ゴミ箱。これらの回収・清掃は本来、観光のための追加コストだ。だが現実には、自治体の一般財源、つまり住民負担で賄われてきたケースが多い。
(2)安全確保:雑踏警備が“イベント並み”の常態に
京都、鎌倉、渋谷、ニセコ……人気スポットでは、休日だけではなく平日も混雑が続く。交通整理や雑踏事故防止のために警備員を配置すれば、人件費は年間で数千万円単位になり得る。さらに人手不足で委託費は上がる一方だ。
(3)インフラ:トイレ・道路・案内表示・Wi-Fiまで「見えない維持費」
観光地の公共トイレ清掃頻度を上げる、案内板を多言語化する、駅から観光地までの導線を整える。どれも“当たり前に存在する便利さ”の裏にコストがある。
「これまでは『おもてなし』という言葉で、自治体が無理をしてきた。しかし今は、住民が耐えるべき負担を超えている。受益者である旅行者に負担をお願いするのは、むしろ国際標準です」(湯浅氏)
宿泊税は日本独自の増税ではない。観光都市の多くは、宿泊税を当然のように導入している。
たとえば米ハワイでは宿泊税(TAT)などが観光財源として機能し、道路や環境、景観維持に投じられている。欧州の観光都市でも、宿泊税は「観光客が街を使う対価」として制度化されている。
ここで重要なのは、宿泊税が“税金である”以上に、“観光都市経営の仕組み”だという点 だ。観光で稼ぐ。観光で傷む。その修繕費を、観光が生んだ収益から回す。
この循環が成立して初めて、観光は「持続可能な産業」になる。
「宿泊税は、単なる財源ではなく“観光のライフサイクルコストを可視化する装置”です。観光地に必要なのは、客数の最大化よりも、負荷と収益のバランス設計です」(同)
宿泊税が増えるほど、宿泊事業者の表情は険しくなる。理由は単純だ。宿泊税のコストを払うのは宿泊者だが、徴収の実務を担うのは宿泊事業者だからである。
苦(1)システム投資:自治体ごとに違う制度が“標準化できない”
税率、課税対象、免税・減免(修学旅行生など)の扱い、課税開始日、徴収方法――自治体ごとの違いが大きいほど、予約・会計システムの改修は高額になる。
中小の旅館・ホテルにとって、数百万円規模の改修費は決して軽くない。
苦(2)フロント負担:クレーム対応の矢面に立たされる
現場で最も厳しいのが「事前決済したのに、なぜ追加で払うのか」という説明だ。OTA(オンライン旅行会社)の仕様が追い付かず、現地徴収になれば不満が噴き出す。英語、中国語、韓国語での説明も求められる。
本来なら“ホスピタリティの時間”であるはずの接客が、“税務説明の時間”に置き換わる。現場疲弊が起きるのは当然だ。
苦(3)使途の不透明性:「本当に観光に使われるのか」という疑念
宿泊事業者や観光業界が最も警戒しているのがここだ。
「宿泊税の徴収代行は、我々にとって完全に“持ち出し”の作業です。その税が、二次交通や景観保護など“宿泊客が価値を感じる改善”に使われるなら理解できますが、単なる穴埋め財源なら反発は強まります」(前出・ホテル支配人)
宿泊税が成功するか否かは、税率よりも「納得感」で決まる。納得感の根拠は、透明性と成果である。