訪問介護、終わりの始まり?倒産が過去最多、報酬減と人材流出で「介護難民」連鎖

「2%の報酬減」という致命傷と、他業種との賃金格差

 ではなぜ、需要が増える一方で経営が成立しないのか。要因は大きく2つある。

 1つは2024年の介護報酬改定だ。国は「全体ではプラス改定」と説明したが、訪問介護の基本報酬は2%以上引き下げられた。厚労省は「訪問介護の利益率が相対的に高い」とするデータを根拠にしたが、現場は強く反発した。

 訪問介護は「移動」という特殊コストを抱える。移動時間は報酬が発生しないうえ、車両維持費・ガソリン代・渋滞・天候などの変動も大きい。数字上の利益率が高く見える局面があっても、それは一部の都市部や効率運営が可能な事業所に偏る可能性がある。

 もう1つは、全産業的な賃上げ競争だ。物流、外食、小売、コールセンターなどが賃上げを加速する一方で、訪問介護は公定価格の上限に縛られ、賃上げ余力が乏しい。

「マクドナルドのアルバイトのほうが時給が高く、精神的・肉体的負荷も少ない。これでは若い人が来るはずがない」(都内事業所経営者)

 厚労省の調査でも、事業所廃止の最大理由として「人員不足・高齢化」が繰り返し挙げられている。担い手であるヘルパーの高齢化が進み、若年層の参入が細っている状況では、訪問介護は「需要はあるのに供給できない」状態へ向かう。

「訪問介護は労働集約産業で、賃金が上がらない限り供給は回復しない。問題は“需要の不足”ではなく“賃金が市場均衡に届かない制度設計”だ。公定価格がある業界では、人材不足が慢性化しやすい」(高山氏)

地方で始まる「介護難民」の連鎖…家族に突きつけられる過酷な現実

 この危機は、企業の業績問題を超え、すでに社会問題化している。例えば長野県高山村では2024年秋、村内唯一の訪問介護事業所が休止に追い込まれ、約40人の高齢者が突然日常支援を失ったと報じられた。

 訪問介護が途切れると、生活はどう崩れるのか。起きる現象は連鎖的だ。

(1)施設への集中
 在宅が不可能になった高齢者が特養や老健に流れ込む。しかし施設側も人手不足で受け入れが限界に近い。

(2)介護離職の増加
 プロの介護が来ないなら家族が埋めるしかない。結果として、就労継続が困難になり、介護離職が増える。これは世帯収入を直撃し、消費の減退や企業の人材流出につながる。

(3)孤独死・老老介護の破綻
 定期的な見守りがなくなることで異常の発見が遅れる。転倒・脱水・服薬ミスといった“避けられた事故”が増え、最悪の事態につながる。

「在宅介護が崩れると、医療現場にも跳ね返る。訪問介護は生活を支えるだけでなく、体調悪化の兆候を拾う“早期警戒装置”でもある。介護の断絶は救急搬送の増加として出てくる」(同)

解決への道筋:ビジネスの「効率」か、国の「覚悟」か

 もはや“志”や“ボランティア精神”で持続できる段階ではない。必要なのは、構造的に「人手不足でも回る仕組み」か、「賃金を上げられる財源」だ。道筋は大きく2つに整理できる。

1)徹底的なDXと集約化――移動という「死に時間」を削る

訪問介護の最大の非効率は「移動」だ。移動時間は報酬が発生しない。ここを最適化できれば、同じ人数で提供できる訪問回数が増える。

・AI自動配車・ルート最適化
 サービス提供責任者が数時間かけていたシフト作成をAIが短時間で組めれば、訪問件数を1~2件増やせる可能性がある。

・記録業務の自動化・データ連携
 介護記録、ケアマネ連携、請求作業の負担は想像以上に重い。ここが減れば現場の疲弊が和らぐ。
 ただしDXには初期投資が必要で、小規模事業所ほど導入が難しい。結果として「DXできる事業者だけが生き残る」格差が広がるリスクもある。