「現場はDXを望んでいるが、投資余力がない。補助金だけでは足りず、導入後に運用を回せる人材がいない。だから本質は“IT導入”というより“業務設計の再構築”だ」(同)
2)基本報酬の再設計――“賃金が上がらない制度”を直す
訪問介護が持続不能な最大要因は、賃金を上げたくても上げられない制度にある。2024年の基本報酬引き下げが象徴したように、政策判断一つで収益が削られる業態で、人材確保は成立しにくい。
つまり、訪問介護を社会インフラとして維持するなら、国は「基本報酬」を現実的水準に再設計し、移動コスト・地域特性を織り込む必要がある。これは実質的に、社会保険料や公費の負担増と表裏一体だ。
訪問介護の窮地は、一企業の努力で埋められる範囲を超えている。ただし、打開の芽も出てきた。鍵は「時間の創出」と「制度運用の柔軟化」である。
(1)AIで移動時間を削る:介護の生産性を上げる唯一の道
訪問介護の“非稼働時間”を減らせれば、同じ人員でも提供量を増やせる。AI配車、ルート設計、記録自動化はその核となる。
(2)オランダ発「ビュートゾルフ」モデルの示唆
オランダの訪問介護組織「ビュートゾルフ」は、少人数の自律型チームで運営し、過剰な管理コストを削った。日本でも、管理の軽量化と現場裁量の拡大によって定着率を改善する動きがある。
「介護は“管理で回す産業”ではなく、“現場が回るように設計する産業”だ。自律型チームは理想論に見えるが、むしろ人材不足下では現実解になり得る」(同)
(3)国の緊急手当:処遇改善加算の拡充
国は処遇改善を拡充してきたが、現場からは「手続きが複雑で事務負担が重い」という声も根強い。賃上げを実現する制度が、現場を疲弊させては本末転倒だ。
(4)混合介護(保険外併用)の解禁は「禁断の果実」か
持続性を高める案として浮上するのが混合介護だ。保険内サービスに加え、保険外で生活支援を上乗せし収益を確保する。
ただし、これは「介護格差」を生む危険も孕む。経済力のある高齢者は手厚いケアを受けられる一方、困窮層は最低限の支援しか得られない社会になり得る。政策の設計次第で、社会の分断を加速させる可能性がある。
セントケアHDの非公開化は、訪問介護を“福祉”の枠だけで語る時代が終わったことを示す。短期利益を追う株式市場から距離を置き、AI投資や業務再設計、現場の働き方改革を進め、「生活支援プラットフォーム」へ転換する――。もしその構想が本物なら、訪問介護は衰退産業ではなく、社会の持続性を担う次世代インフラになり得る。
訪問介護の崩壊は、日本が「福祉の国」として生き残れるか、それとも「介護弱者が棄てられる国」になるかの分水嶺だ。在宅介護は、尊厳を守る最後の砦である。その砦を維持するのは、現場の献身ではなく、制度と投資の覚悟にほかならない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)