ソニー、テレビ手放しAIインフラへ変身加速…次は“1.8兆円半導体”の切り離しか

 今回の分離は「敗北」ではなく、「純度100%のエンタメ・サービス企業」へ脱皮するための“攻めの解脱”と言えるだろう。

次の焦点、半導体事業。なぜ「売却」ではなく「独立上場」なのか

 市場が次に注目するのは、ソニーGのI&SS事業だ。しばしば「テレビと同様に切り離されるのでは」と取り沙汰されるが、テレビと決定的に異なるのは、ここが圧倒的な収益性と将来の“インフラ性”を持つ事業である点にある。

 イメージセンサーはスマートフォンにとって不可欠な部品であり、長らくソニーの牙城だった。とりわけハイエンド帯での競争力は高い。一方で、同事業は特定顧客(代表的にはApple)への依存度が高いともいわれる。これは裏を返せば、顧客構造が変化した瞬間に業績が揺らぎ得るということだ。

 そして、もう一つ重要なのが「投資の桁」である。半導体は、研究開発も設備投資も青天井になりやすい。微細化、積層技術、新材料、製造プロセスの刷新――競争に残り続けるには、継続的な巨額投資が避けられない。

 ここでソニーGが直面するのが、いわば“投資のジレンマ”である。

 ・投資の資金争奪:年間数千億円規模にもなり得る投資は、ゲームの大型開発、映画・アニメの買収、音楽のIP投資など、グループ内の他事業と資金を奪い合う構造を生む。

 ・評価のギャップ:投資家の視点では、PERが高くなりやすいコンテンツビジネスと、資本集約的な半導体が同一グループ内で混在すると、企業価値が低く見積もられる“コングロマリット・ディスカウント”が起きやすい。

 だからといって、半導体を完全売却する選択肢は現実的ではない。なぜなら、半導体がいまや単なる収益源ではなく、次の産業覇権(フィジカルAI)の核心に近いからだ。

 そこで浮上するのが、2025年に金融子会社でも実施されたとされる「パーシャル・スピンオフ(部分的分離)」という手法である。これは、ソニーGが一定の株式を保有し続けながら、事業会社を上場させ、資金調達力と経営の独立性を強める構造だ。

「パーシャル・スピンオフは、日本企業が“企業価値の見せ方”を最適化するための手段として有効だ。完全分離ではなく持分を残すことで、シナジーと独立性の両方を取りにいける。市場が嫌う“何でも屋のコングロマリット”から脱し、投資家が評価しやすい形に再編できる」(同)

 つまり半導体は「切り捨てる」のではなく、“独立させて加速させる”。それが最も合理的な解である。

「フィジカルAI」の眼球として。2030年に向けた一筋の光

 半導体事業が独立・上場すれば、ソニーGは一定の株式を持ちつつ、半導体部門は市場から資金を調達し、顧客構造の転換と、爆発的な投資を同時に進めやすくなる。

 狙うべき方向性は明確だ。スマートフォン向けの“高級部品”に留まらず、現実世界をAIで解析・制御する「フィジカルAI」の目となることである。

 ここで重要なのは、生成AIの進化によって“脳(モデル)”は急速に賢くなった一方、現実世界を理解するための“目と耳”は依然としてボトルネックである点だ。AIが現場を変えるには、現実の情報を高精度で取り込むセンサーが不可欠になる。

 その代表例が、自動車だ。

自動運転・ADAS:センサーは「車の命」になる

 車載領域では、運転支援(ADAS)から自動運転へ進むほど、カメラ・LiDAR・レーダーの“冗長化”と高性能化が必要になる。とりわけカメラはコストと解像度のバランスから採用が進みやすく、CMOSセンサー市場は中長期で拡大が予測されている。

 ソニーの高解像度・高感度センサーは、もはやスマホの部品ではなく、車の安全性を規定する中核部品になり得る。