テスラ「充電規格」が世界標準に? ホンダ・マツダも追随、日本EVの“敗北”と逆転シナリオ

 EV充電規格を巡る競争は、単なるコネクタ形状の争いではない。それは、「誰が充電プラットフォームを支配するか」という問題である。

 充電インフラを握る企業は、車両データ、位置情報、決済データ、電力取引といった巨大なデータ資産を手に入れる。

「EVの充電ネットワークは、ガソリンスタンドよりもはるかに重要なデータインフラになります。どの車が、いつ、どこで、どれだけ充電するかというデータは、電力需給の最適化や自動運転のインフラ設計にもつながります。つまり充電規格の覇権は“次世代モビリティOS”を巡る戦いでもあるのです」(同)

 この視点に立てば、テスラがNACSを公開規格として開放した戦略は極めて合理的だ。自動車メーカーがNACSを採用するほど、テスラのインフラは事実上の標準として拡大していく。

日本が狙う「次の一手」

 しかし、日本勢が完全に主導権を失ったわけではない。そのカギを握るのが、中国と共同開発を進める次世代規格「ChaoJi(チャオジ)」である。

 ChaoJiはCHAdeMOと中国のGB/Tを統合した次世代急速充電規格だ。最大出力は500kW以上とされ、現在主流の急速充電の数倍の性能を持つ。

「ChaoJiは技術的には非常に野心的な規格です。中国市場は世界EV販売の半分以上を占めるため、中国と日本が協調すれば巨大な市場基盤が生まれます。もしこの規格が普及すれば、テスラ規格に対抗できる唯一の勢力になる可能性があります」(同)

 つまり、日本メーカーは短期ではNACSで市場に適応、中期ではChaoJiで再逆転という二段構えの戦略を描いている可能性がある。

 EV充電規格の争いは、まだ決着したわけではない。北米ではNACSが優勢だが、欧州ではCCS、中国ではGB/Tが依然として主流であり、世界は地域ごとに異なる規格が共存する状態にある。

 この状況は、スマートフォン黎明期の「iOS、Android」の競争にも似ている。規格争いで完全勝利するよりも、どのエコシステムを掌握するかが重要になる。

「規格で負けて、商売で勝つ」戦略

日本メーカーにとって、NACS採用は一見すると敗北のようにも映る。だが、見方を変えればEV市場拡大のための合理的な選択でもある。充電インフラ問題を解決すれば、EV普及の最大の障壁が消える。

そして日本メーカーにはまだ車両品質・生産技術・全固体電池といった強力な武器が残されている。

「EVの勝敗は充電規格だけで決まるわけではありません。車両の品質、電池技術、サプライチェーンなど、自動車メーカーの競争領域は依然として広いので、日本メーカーは“規格で負けても商売で勝つ”という戦略を取る可能性があります」(同)

 EV充電規格の争いは、まだ終わっていない。テスラのNACSが世界標準となるのか。それとも中国・日本連合のChaoJiが巻き返すのか。確かなのは、この争いが単なる技術競争ではなく、「次世代モビリティの支配権」を巡る戦いであるということだ。

 そして今、日本メーカーは敵のインフラを利用しながら時間を稼ぐという、きわめて現実的な戦略を選びつつある。

 その判断が「敗北」になるのか、それとも次の覇権争いへの布石になるのか。EV時代のインフラ覇権は、いままさに第2ラウンドに突入している。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)