しかし、2025年後半には独立系セラーから「自分のブランドサイトの商品が、許可なくアマゾンのAIにリストアップされ、マージンを抜かれている」という告発が相次いだ。「他者がアマゾンを飛ばすのは提訴するが、自らが他社サイトを飛ばして吸い上げるのは許容する」という二重基準は、王者の焦りの表れとも取れる。
「現在起きているのは、単なる検索エンジンの交代ではなく『購買意思決定の主権争い』です。これまではアマゾンのアルゴリズムが消費者の目に触れる商品をコントロールしてきましたが、AIエージェントの登場により、そのコントロール権がユーザーの手元のAIへと移りました。これは20年続いたプラットフォーム・ビジネスの前提を崩すパラダイムシフトと言えます」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)
この変化は一時的な流行ではない。数字がその深刻さを物語っている。
成長速度は想定を超えている
米国の調査会社eMarketerの最新推計によれば、AIエージェント経由の小売EC取引額は2026年に200億ドルを突破する見通しだ。マッキンゼー・アンド・カンパニーはさらに強気で、2030年までに世界のエージェント型コマースは3兆〜5兆ドル規模に達すると試算している。
2025年サイバーウィークの衝撃
2025年の年末商戦(サイバーウィーク)では、オンライン注文全体の約20%が何らかの形でAIの推奨やエージェント機能の影響を受けていたことが判明した。小売サイトへのAIチャットボットからのトラフィックは前年比で約7倍(670%増)という驚異的な数字を記録しており、消費者の「探し方」は不可逆的な変化を遂げている。
米国で起きた地殻変動は、時間差をおいて日本市場にも押し寄せている。しかし、そこには日本独自の力学が働いている。
D2C市場の本格離陸と「脱プラットフォーム」
日本のD2C市場は2026年に約3兆円規模に達すると見られている。かつては「アマゾンに出さなければ売れない」と言われたが、現在はSNSでファンを囲い込み、自社サイト(Shopify等)へ直接誘導するモデルが完全に市民権を得た。
・事例1:Mr. CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ) 徹底した世界観の構築とSNSでの話題化により、アマゾンや楽天に頼らずとも「限定感」を武器に自社ECだけで爆発的な売上を記録。顧客データを自社で完全に把握し、LTV(顧客生涯価値)を高める戦略の成功例だ。
・事例2:MEDULLA(メデュラ) パーソナライズシャンプーを展開する同社は、診断というプロセスを通じてユーザーと直接つながる。プラットフォームの画一的な検索結果では伝えきれない「個別の悩みへの解決策」を提示することで、アマゾンでの比較検討の土俵から降り、独自の経済圏を築いている。
日本特有の「ポイント経済圏」という壁
ただし、日本においてアマゾンが即座に没落することはないだろう。楽天経済圏やPayPay経済圏といった、強力な「ポイントの引力」が消費者をプラットフォームに繋ぎ止めているからだ。
米国が「AI vs プラットフォーム」の構図であるのに対し、日本は「AI・D2C・ポイント経済圏」が三つ巴となり、用途に応じてチャネルを使い分ける「購買の分散化」が進むと予測される。
物流という最後のお堀
アマゾンには、AIがどれだけ進化しても代替できない「物理的な強み」がある。翌日・当日配送を実現する物流網だ。AIが最適な商品を見つけても、配送に3日かかるサイトより、1クリックで数時間後に届くアマゾンを「決済・配送インフラ」として選ぶバイアスは依然として強い。