30年の苦境を経て造船株が急騰…日本造船業が“脱炭素の切り札”として復権

 さらに、この波及効果は船主である海運大手3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)にも及ぶ。彼らは次世代燃料船の導入に向けて、国内造船所との共同開発を加速させており、日本の海事クラスター全体が一丸となって「脱炭素市場」を取りに行く構図が出来上がっている。

「バラ色」だけではない…リスクと課題

 ただし、復活への道のりは平坦ではない。ビジネスジャーナルとして、投資家や読者が注視すべきリスクもフェアに提示しておく必要がある。

 第一に、コスト上昇の圧力だ。鋼材価格の高騰に加え、深刻な人手不足に伴う人件費の上昇が、利益を圧迫している。名村造船所の2026年3月期予測が減益となっているように、受注は好調でも、利益を確実に確保できるかは不透明な部分も残る。

 第二に、人材の空洞化だ。30年の停滞期に、若手技術者の採用を控えてきたツケは大きい。熟練工の引退が進むなか、自動化やDX(デジタルトランスフォーメーション)をどれだけ早く実装できるかが勝負の分かれ目となる。

 第三に、中国の動向だ。中国は依然として国家主導で技術力を急速に高めており、次世代燃料船の分野でも日本に追いすがっている。技術的なアドバンテージをいかにして特許や知的財産として守り、標準化を主導できるかが鍵となる。

「現在は『追い風』が吹いている状態ですが、これが一過性のブームに終わるか、持続的な成長軌道に乗れるかは、これからの3〜5年の投資判断にかかっています。単なる船作りではなく、データや環境技術を売るサービス産業への脱皮が必要です」(同)

日本造船業は「新たな産業」へ

「脱炭素・経済安保・官民連携」。この三つの潮流が重なり合った今、日本造船業は30年ぶりの真の復権を迎えつつある。

 しかし、これは「かつての大量生産時代への回帰」ではない。目指すべきは、デジタルとグリーンを融合させた、高付加価値な「次世代モビリティ産業」としての再生である。

 世界が海上のカーボンニュートラルを模索するなか、その答えを提示できるのは、苦境のなかでも技術を磨き続けた日本の造船所かもしれない。株式市場におけるマネーの流入は、その可能性に対する期待の現れだ。日本の造船業が、再び世界の海をリードする日——それは決して遠い夢ではなく、確かな現実として動き出している。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=山崎慎一/航空・海事アナリスト)