三菱商事「ベトナム石炭火力」稼働…脱炭素時代の現実解とエネルギー地政学

 国内最大の発電事業者JERAは、2030年代前半までにアンモニア混焼率50%以上の商用運転を目指し、2040年代にはアンモニア専焼(100%)への移行を射程に入れた「ゼロエミッション火力」ロードマップを公表している。碧南火力発電所(愛知県)では2023年度から20%アンモニア混焼の実証試験を開始した。

 IHI・三菱重工はハードウェア側から主導権を握る戦略だ。アンモニア専焼バーナーや小型モジュール炉(SMR)など「燃やす技術」そのものを国際標準化し、知的財産として世界に売り込む。エネルギー転換が進むほど自社技術の需要が高まる、いわば「インフラ型の知財ビジネス」である。

「理想」を阻む3つの現実的課題

 エネルギー転換の絵図は描きやすいが、実装は別問題だ。日本が直面する課題は主に三つある。

 第一に、コストの壁。再エネや代替燃料のコストは依然として高い。経済産業省の試算では、2030年に石炭火力に20%のアンモニアを混焼した場合、発電コストは石炭単体比で約15倍に膨らむとされる。水素の販売価格も現在は1Nm³あたり約100円と、既存燃料の最大12倍程度だ。LCOE(均等化発電原価)でガス火力並みに下げるには、技術革新と大規模調達による量産効果が不可欠であり、2030年代前半までに実現できるかは不確実性が高い。

 第二に、サプライチェーンの脆弱性。再エネ転換の主役である太陽光パネルや蓄電池の製造に不可欠なレアアース・クリティカルミネラルは、現在も中国への依存が続く。日本の対中レアアース依存度は2010年の89.8%から2024年には62.9%まで低下したものの、精製・加工段階では中国を迂回できない構造が残存する。脱炭素のサプライチェーンが地政学リスクと表裏一体であるという矛盾は、依然として解消されていない。

 第三に、ESG投資の逆風。欧米の機関投資家が「石炭関連」に対して厳しい目を向ける中、日本政府・企業が主導する「トランジション・ファイナンス」が国際社会でどこまで認められるかは流動的だ。2024年2月には国際資本市場協会(ICMA)がトランジション・ファイナンスに関するガイダンスを発表し、日本の取り組みも参考事例として紹介された。日本は世界初の「GX経済移行債」を発行するなど制度整備を進めているが、欧州タクソノミーとの整合性をめぐる議論は続いており、国際的な「お墨付き」は部分的にとどまっている。

「トランジション・ファイナンスの本質は”排除”ではなく”変容への資金調達”です。日本が高効率石炭技術や水素・アンモニア転換のロードマップを国際社会に説明し続けることは重要です。ただし、科学的根拠に基づく削減ペースを伴わなければ、グリーンウォッシュと受け取られるリスクもある。精緻なロードマップと、それを裏付けるモニタリング体制が問われています」(同)

近未来への展望:2030〜2040年のエネルギー地図

 現実の制約を踏まえつつも、2030〜40年代のエネルギー地図は確実に変わりつつある。

「燃やす」から「変える」へ。 JERAのロードマップが示すように、2030年代は石炭火力のアンモニア混焼率を20〜50%に引き上げる実証・商用フェーズが本格化する。2040年代には専焼(100%アンモニア)への移行が焦点となる。三菱重工などが開発するアンモニア専焼バーナーの技術が確立すれば、既存の火力設備が実質的に「脱炭素電源」へと転換される。この「既存インフラの刷新」こそが、日本型エネルギー転換の核心だ。

 ペロブスカイト太陽電池が分散型エネルギーを加速させる。 建物の外壁や窓ガラスにも設置可能なペロブスカイト太陽電池は、都市部の建物全体を発電所に変える可能性を持つ。国内外で量産体制の整備が進んでおり、2030年代の普及が現実味を帯びてきている。送電ロスを最小化しながら需要地で電力を生み出す「分散型エネルギー網」の完成は、エネルギー安全保障の概念そのものを書き換えうる。