北海道・ニセコや長野・白馬は、外資系高級ホテルの誘致とワールドクラスのスキーリゾート整備により、欧米・豪州からの高単価客を呼び込んでいる。夜間観光(ナイトタイムエコノミー)の強化、文化財の宿泊施設化(古民家ステイ・寺泊)なども、消費単価を引き上げる有力な手段として注目される。
2025年の訪日外国人旅行者数は約4,268万人、消費額は約9.5兆円と過去最高を更新。特に欧州勢は1人当たり39万円を超えるなど高付加価値化が鮮明になっており、経済波及効果は約19兆円に達する。
政府は2026年3月27日に閣議決定した第5次観光立国推進基本計画において、2030年の訪日客数6,000万人・消費額15兆円という目標を継続し、高付加価値化・地方分散・観光DXの5本柱を政策軸とした。
しかし、日本全体を見渡すと、光と影の格差は深刻だ。
現状、外国人の延べ宿泊者数は三大都市圏で全国の約7割を占めており、地方圏への分散は依然として進んでいない。一方で人気観光地では過密が続く。
インバウンドの回復は東京・大阪・京都などの主要都市や人気観光地に集中しており、地方の観光地では訪日外国人の増加が限定的で、地域間の格差が広がっている。
インバウンドで苦戦する地域には、いくつかの共通点がある。第一に「受け入れ環境の未整備」だ。英語・キャッシュレス対応の遅れ、空港・駅から観光地への二次交通の欠如が、外国人旅行者の入口でブロックをかけている。第二に「ターゲティングの不在」だ。「誰でも来てほしい」という戦略のなさは、結果的にどの国のニーズにも刺さらない。韓国人が求める体験と欧米人が求める体験は異なり、それぞれに特化したコンテンツとプロモーションが必要だ。
「地方の失敗パターンの多くは、地域資源の棚卸しをせずに”なんとなく外国人向け”のパンフレットを作って終わるケースです。どの国の、誰に、何を体験させるのかを定義できない限り、予算をかけても空振りに終わる可能性が高い」(同)
インバウンド対応を行う事業者の約半数が「訪日客増加への対応は困難」と回答しており、多言語対応スタッフ不足が課題として浮き彫りになっている。 PR TIMESオーバーツーリズムの陰で、隣接エリアが閑散としている「格差の二極化」は、経営資源をすべて一点に集中させる危うさも示している。
では、この構造変化をどう読み解くべきか。
まず直視すべきは「地政学リスクとの向き合い方」だ。中国からの訪日客は2025年に急回復したものの、日中関係の緊張や中国国内の経済動向次第で再び変動しうる。大阪が今回見せた「韓国・台湾・欧米のポートフォリオ」こそが、単一市場依存の危険を分散するモデルであり、企業の海外マーケティング全般に応用できる教訓だ。
主要空港の提供座席数が今後5年程度で大きく増加する可能性は低く、訪日外国人数が4,500万人程度で頭打ちになる懸念もある。6,000万人目標の達成には地方空港への国際線直行便の誘致が不可欠で、東北・北陸など新幹線網が整備されたエリアのポテンシャルが高い。
ここにビジネスチャンスが宿る。地方空港周辺の不動産・物流・デジタルインフラ、多言語対応IT、体験型コンテンツのプロデュース、インバウンド向け金融サービス……。インバウンドはもはや観光業界だけの話ではなく、あらゆる産業が絡む「日本最大の成長産業」として再定義されつつある。
2025年のインバウンド消費額は10兆円に達する見通しで、2012年比で実に10倍もの規模に成長した。
大阪の3月の数字を「一地域の好調」と読む企業と、「日本観光の構造転換を告げる前兆」と読む企業では、今後の戦略に決定的な差が生まれる。「中国頼み」から「多角化」へのシフトは、観光という枠を超えて、日本企業がグローバル市場で生き残るための普遍的な戦略原則でもある。
2026年度から始まる第5次観光立国推進基本計画が掲げる「2030年6,000万人・消費15兆円」の実現は、主要都市の独り勝ちでは達成できない。地方がいかに「玄関口」から「体験の目的地」へと進化できるか。その答えを出せた地域と産業が、日本経済の次の10年を形作ることになる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯浅郁夫/観光政策アナリスト)