丸亀製麺は2012年に中国本土へ進出し、2018年のピーク時には最大約69店舗まで拡大した。しかし2022年10月までに全店閉店。中国事業整理費用として12億円を計上する結果となった。
なぜうどんは敗れ、寿司は勝てたのか。
核心は「代替可能性」の問題だ。中国には蘭州ラーメン、刀削麺、重慶小麺など、低価格で質の高い麺料理が豊富に存在する。消費者の目線では、丸亀製麺のうどんはこれらと「同じ麺類」のカテゴリに入りやすい。価格が2〜3倍になれば、合理的消費を重視する現代の中国の若者が離れるのは必然だ。
翻って寿司、とりわけ回転寿司という業態はどうか。中国国内にはN多寿司など現地系チェーンが3000店舗以上存在するが、業態は主に巻き寿司や揚げ物が中心で、「江戸前スタイルの生ネタ握り寿司を、清潔で快適な環境で、低価格で食べる」という体験を提供できる国内競合はほぼ不在だ。スシローが参入したのは、文字通りのブルーオーシャンだった。
「麺類と寿司では、中国消費者の『外食体験』における位置づけが根本的に異なる。麺は日常食の延長、寿司はまだ『特別感』を持つハレの食事だ。それをチェーン価格で提供できることが、圧倒的な需要を生んでいる」(同)
スシローの中国展開における最も興味深い点は、あえて現地化しなかった部分の多さにある。
ネタの品質と鮮度管理、店内の清潔感、接客スタイル——これらは日本の基準をそのまま適用している。中国では生魚が苦手な消費者も多いため、加熱調理メニューは増やしているが、あくまで「品質のスシロー」というブランドの核は一切妥協していない。直営にこだわり続けているのも、この品質水準を担保するためだ。
一方で、完全に現地最適化した領域もある。決済システムはWeChat Pay・Alipayに完全対応し、マーケティングは小紅書(RED)を中心としたSNS戦略で拡散を促進している。実際、上海・北京・成都のいずれの店舗でも、オープン直後に小紅書上でUGC(ユーザー生成コンテンツ)が爆発的に拡散し、追加の広告費をほぼかけずに認知を獲得している。
「変えるべき部分と、変えてはいけない部分を明確に切り分けている。これはグローバル外食展開の基本原則だが、実行できている企業は少ない。スシローはその黄金比を見つけている」(同)
もう一つ見逃せない視点がある。現在の中国経済は、かつて日本が経験した「デフレ初期症状」と酷似している。
資産価格の下落、若年層の消費慎重化、「浪費」から「合理的消費(理性消費)」へのシフト——これらはすべて、1990年代後半の日本社会が経験したことだ。その時代に日本で成長したのは、「安い・うまい・衛生的」のトリレンマを解いたチェーンだった。吉野家やマクドナルド、そして後のスシローがそうだ。
スシローは奇しくも、そのモデルを中国のデフレ初期局面に持ち込んだ。コスパへの需要が急上昇しているタイミングで、最もコスパの高い「本物の日本式回転寿司」を提供できる——これ以上ない市場適合だ。
100店舗達成は通過点にすぎない。スシローが次に直面する課題は二つある。
一つは急速な出店に伴う人材育成の限界だ。「直営」「高品質維持」を掲げる以上、店長・調理スタッフの教育コストは膨大だ。中国国内での採用・育成体制が出店ペースに追いつくかは、今後最大のボトルネックになりうる。
もう一つは現地資本による模倣(クローン)の台頭だ。スシローの成功は中国市場でも明白であり、「日本式高品質回転寿司」を標榜する現地チェーンがすでに複数名乗りを上げ始めている。2002年から培ったデータ資産と直営ブランドの信頼は、一朝一夕に模倣できないが、価格競争に引き込まれるリスクは常に存在する。
スシローが2026年9月末に向けて210〜222店舗を目標に掲げていること自体、この「先行者利益の窓」が永続しないことを経営陣が自覚している証拠とも読める。
スシローの中国100店舗達成は、単なる外食チェーンの海外展開成功談ではない。「テクノロジー(ICチップ・AI需要予測・デジロー)」と「品質(QSC:品質・サービス・清潔感)」を両輪に、20年かけて磨いたモデルが、デフレ化する巨大市場でそのまま機能することを証明した——日本のサービス業が世界で再び勝つための、一つの教科書がここにある。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)