しかしながら、このモデルにはアキレス腱がある。「商品を工場からフル稼働で店舗へ流し続けること」が絶対条件だという点だ。ロイヤリティではなく卸売マージンで収益を得る以上、工場が止まれば本部収益もそのまま止まる。
シャトレーゼは2024年中に岡山県、山形県、鹿児島県の3カ所で新工場を稼働させると発表しており、国内の生産拠点はグループ会社を含め13カ所となる見通しだ。積極的な工場投資の裏側には、店舗網急拡大に対する供給能力の逼迫という現実がある。
工場稼働遅れが人事面の問題に直結した事例も起きている。特定技能の在留資格を持つベトナム人労働者88人が、山梨県の新工場の全面稼働遅れを原因として、約2カ月半にわたり無給で待機させられ、休業補償が支給されていなかったことが発覚した。その後、出入国在留管理庁からシャトレーゼに改善命令が下された。
さらに2025年3月には、公正取引委員会より下請代金支払遅延等防止法(下請法)に基づく勧告を受けた。包装資材などを製造委託した11社分・約2,383万円分を正当な理由なく受け取らず、うち約1,300万円相当は発注から1年以上受領されないまま下請け業者の倉庫に滞留していた。古屋勇治社長は「下請法に関する知識の不足、並びにリスクの抑制・モニタリングの不備に起因するものと大変重く受け止めている」とコメントしている。
「急速な多店舗展開の過程では、生産・調達・人事の各部門が同時に過負荷に陥りやすい。SPAモデルは一貫管理の強みがある反面、どこか一点でボトルネックが生じると全体に波及しやすい。外部のチェック機能を強化し、ガバナンスと拡大スピードのバランスを取ることが次のステージへの課題です」(同)
なお2025年7月時点で、シャトレーゼは新規FC加盟の募集を停止している。急拡大路線を一時的に引き締め、サプライチェーンと内部管理体制を整備するフェーズに入ったとも読める。
シャトレーゼの強みは、単一の施策によるものではない。製造・物流・販売・人材育成が「三喜経営」という一つの哲学で一気通貫していることにある。加盟店が「ロイヤリティを払わなくて済む」という表層的な事実の背後には、本部が工場とサプライチェーンへの継続投資を怠らないことで初めて成立するエコシステムがある。
その証拠に、近年の課題はいずれも「製造インフラの整備が店舗拡大に追いつかない」ことに集約される。外国人労働者の処遇問題も、下請け企業への対応問題も、根幹には供給能力のひっ迫と管理体制の遅れがある。
創業70周年を迎えた2024年に1,000店舗の節目を達成したシャトレーゼが、次の2,000店舗に向けて何を優先すべきかは明確だ。SPAモデルの恩恵を加盟店・顧客・取引先に持続的に還元するには、急拡大を支えるだけの製造インフラの整備と、それを正しく機能させるガバナンスの強化が不可欠だ。「三喜経営」の精神が、取引先への誠実な対応にも貫かれているかどうかが、今まさに問われている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=田辺晃成/経営コンサルタント)