ここで改めて確認すべき構造的事実がある。IEA(国際エネルギー機関)の2024年データによれば、中国はレアアースの世界精錬量の91.7%を占める。米地質調査所(USGS)によると、採掘段階でも中国のシェアは約69%だが、真のボトルネックは精錬工程にある。
鉛筆1本が製品になるには「木材の加工」が必要なように、レアアースは採掘した鉱石から不純物を取り除き、酸化物・金属・合金へと変換する精製工程を経て初めて産業利用が可能になる。その「加工する工場」のほぼすべてが中国に集中しているのが現状だ。
「採掘地を中国から移しても、精錬を中国に委託していては意味がない」——これが今次の東南アジア戦略が乗り越えようとしている本質的な課題である。今回の住友金属鉱山・双日の動きが評価される点は、採掘だけでなく、マレーシアやフィリピン等での精錬工程を含むサプライチェーンの「川上から川中」にわたる一貫体制の構築を目指していることだ。
「精製の脱中国化こそが、日本のレアアース安全保障の核心です。採掘地の多様化は必要条件ですが、それだけでは十分条件を満たしません。豪州やASEANに精製能力を分散させることで初めて、中国が蛇口を閉めても産業が止まらない体制が完成します」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)
日本はこの問題に対して、以前から継続的な取り組みを重ねてきた。2010年の尖閣問題当時、中国依存度は約90%に達していたが、調達先の多様化や代替技術の開発を経て、現在は約60%程度まで低下している(野村総合研究所推計)。この軌跡は評価に値するが、現在進行形の輸出規制の圧力を前に、60%という数字はまだ脆弱だ。
壁① コストの現実
東南アジアや豪州でのレアアース精製は、中国産に比べてコスト競争力で劣る。中国が数十年にわたる国家主導の産業集積と環境コストを度外視した価格設定で世界市場を席巻してきたことを考えれば、当然のことでもある。現在は経済安全保障推進法に基づく政府補助金が競争力の穴を埋めているが、長期的には補助なしで自立できる産業構造を構築できるか否かが問われる。
壁② 重希土類の偏在という地質的制約
EVモーターの耐熱性を向上させるジスプロシウムや、磁力を高めるテルビウムといった重希土類は、中国南部(江西省)やミャンマー国境周辺に偏在するイオン吸着型鉱床から主に採掘される。軽希土類(ネオジムなど)の代替ルートは着実に整備されつつあるが、重希土類については依然として「中国依存ほぼ100%」という品目が残る。
双日が進めるライナスとの連携は、この重希土類の調達多様化に正面から取り組むものとして意義深い。ライナス社はマレーシアの精錬施設でコマーシャルスケールの重希土類分離精製を2025年中旬から開始しており、これは中国以外では世界初の事例である。
民間商社の役割は、かつての「資源の買い付け(トレード)」から、現地でのESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した開発・操業を主導する「事業投資型」へと完全にシフトしつつある。双日がライナスとJOGMEC共同出資の枠組みで資本参加してきた軌跡は、まさにその好例だ。
政府側では、JOGMECによるリスクマネーの提供と外交的バックアップが不可欠だ。さらに、2026年2月には探査船「ちきゅう」が南鳥島沖の水深約5,700mの海底からレアアース泥の引き上げに世界初めて成功し、商業採掘に向けたロードマップが加速している(商業化目標は2030年頃)。海底資源が実用化されれば、日本は長期的な供給自律性を大幅に高めることができる。