エヌビディア「一強揺らぐ」は誤解か…AI半導体多極化がもたらすコスト破壊

 前出の岩井氏はこう整理する。

「エヌビディアのGPUは、今後も最新フロンティアモデルの学習や、汎用性が求められる研究開発用途では他の追随を許さないでしょう。一方、日常的な推論処理では専用チップとの棲み分けが進む。それはエヌビディアの敗北ではなく、市場の成熟を意味します」

 万能型の重機と、特定ルートに特化した効率的な輸送車が市場に共存するように、次の数年間でAI半導体は「目的別の多層構造」へと進化する。

「インフラを使いこなす」時代の始まり

 AI半導体の多極化が示している本質的なメッセージは、「テクノロジーの調達コストが競争優位の源泉である時代の終わり」だ。

 エヌビディアの強力なGPUを持っているかどうかではなく、安価になったAIインフラを使って自社のどの固有データを活かし、どの業務プロセスを変革できるかが、企業の競争力を決める。現場の顧客データ、属人化した業務ノウハウ、蓄積された取引履歴——こうした「泥臭いデータ」を推論チップに流し込む「アプリケーションの知恵」こそが、次のDX競争の焦点になる。

 AI半導体の勢力図が変わることは、ビジネスのルールが「インフラを握った者が勝つ段階」から「インフラを使いこなした者が勝つ段階」へ移行したことを意味する。その意味では、日本の中堅・中小企業にとって、これほどフェアでチャンスに満ちた局面はないかもしれない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/経済コンサルタント)