テック大手各社は、長年「カーボンニュートラル」を掲げ、太陽光や風力など再生可能エネルギーへの投資を進めてきた。この方向性自体は今も変わっていない。しかし、太陽光や風力は天候に左右されるため、24時間365日止まることが許されないデータセンターの電源として、単独で需要のすべてを賄うことは現実的に難しい。
こうした事情から、近年テック企業やエネルギー企業が相次いで選択しているのが、天然ガス火力発電という選択肢である。米石油大手シェブロンは、2027年末までに総発電容量4ギガワットのガス火力発電施設を米国南東部・中西部・西部地域に建設し、送電網を介さずデータセンターに直接電力を供給する計画を打ち出している。同様に、電力大手NextEraと石油メジャーのExxonMobilも、ノースダコタ州で新しい複合サイクル天然ガス発電施設の共同開発を検討しており、完成すればマルチギガワット規模のデータセンターキャンパスへの電力供給を見込むと発表した。
業界全体を見渡しても、この動きは加速している。米国の発電インフラを調査する国際研究機関によれば、世界全体で開発中のガス火力発電設備容量は2025年に31%増加し、合計1047GWに達した。2026年は新規ガス火力発電プロジェクトが記録を更新する可能性があるという。
「送電網の増強には用地取得や環境アセスメント、許認可など何年もかかるプロセスが必要です。一方、ガス火力発電所はガス田の近くやデータセンターの隣接地に比較的短期間で建設でき、送電網を経由せずに直接電力を供給する『オンサイト発電』が可能になる。テック企業にとっては、グリッドのボトルネックを迂回できる現実的な解決策として映っているのでしょう」(佐伯氏)
ただし、ガス火力発電への依存拡大は、脱炭素目標との整合性という課題も併せ持つ。シェブロンのように二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術の併用を進める動きもあるが、再エネ・原子力・ガスをどう組み合わせるかは、各社・各国で議論が続いている論点である。
このような市場環境の中での丸紅の買収は、単なる資源権益の獲得にとどまらない意味を持つ。丸紅のプレスリリースによれば、今回の買収によって天然ガスおよび天然ガス液を合わせて日量約170MMcfe(LNG換算で年間約130万トン)の生産規模を持つことになる。同社はこれを、中期経営戦略「GC2027」に基づく2027年度までの3カ年で2,000億円を資源投資に配分する方針の一環と位置づけている。
注目すべきは、丸紅が単にガス田を保有して「右から左へ」販売するのではなく、米国内でのガス供給網と発電事業に積極的に関与してきた経緯だ。同社は過去にも米ニュージャージー州のガス火力発電事業に出資するなど、北米の電力バリューチェーンに長年携わってきた実績がある。今回のガス田買収は、上流(資源開発)から下流(発電・供給)までを一気通貫で押さえる「垂直統合」戦略の一手と捉えることができる。
「総合商社は元来、資源の権益を持ちながら、川下のインフラや需要家と直接結びつくことで収益の安定性を高めてきました。AIデータセンター向けの電力需要は、長期的に底堅い『売り先』が確保しやすい。資源価格の変動リスクをヘッジしつつ、安定収益を積み上げられる点で、商社にとって合理性の高い投資だといえます」(同)
数百億円という投資額は、丸紅の規模からすれば「大博打」というよりも、堅実なポートフォリオ拡張の範囲内にある。実際、丸紅は過去にも米国のシェールガス・オイル権益の取得と売却を繰り返しながら、資産の入れ替え(リサイクル)を行ってきた経緯があり、今回の買収もその延長線上の経営判断として位置づけられる。