日本の円建てステーブルコイン市場は現在、異なるアプローチをとる3つの勢力が並走している。
第1の勢力:資金移動業型(JPYC) 個人・Web3ユーザー向けに先行流通中。100万円の送金上限があるものの、小口決済やWeb3サービスとの親和性が高い。2026年1月には羽田空港第3ターミナルで国内初の実店舗ステーブルコイン決済の実証実験が行われ、訪日外国人向け決済手段としての活用も始まっている。
第2の勢力:SBI「JPYSC」 信託型・第3号電子決済手段として国内初の正式発行。送金上限なし。機関投資家・法人向けのB2B決済を主眼に設計されており、当初はSBI VCトレード口座内での先行提供という形式をとる。将来的にはオンチェーン外国為替市場、RWA(現実資産のトークン化)決済、クロスボーダー送金などへの活用を見据える。
第3の勢力:3メガバンク連合(Progmat基盤) 三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行は2025年11月から金融庁の「Fintech実証実験ハブ(PIP)」の支援を受けて実証実験を進め、2026年6月10日には2026年度中の実取引開始を目指すと正式発表した。三菱UFJ信託銀行が発行体となり、三菱UFJ信託銀行がスピンアウトして設立したフィンテック企業Progmatが技術基盤を担う。まずは三菱商事のグローバル決済から実用化を進める計画だ。
SBIが単独のグループ内で意思決定を完結させて先行発行した一方、3メガバンクは「単一ブランド・統一規格」での共同発行を目指しており、業界全体の相互運用性という観点では異なる価値を持ちうる。どちらが「勝る」かという単純な比較よりも、それぞれが異なる強みと顧客基盤を持つ、並走する競争と見るのが実態に近い。
JPYSCが本格普及した先に何が起きるか。現時点で想定される主な変化を整理すると、以下のような論点が浮かぶ。
(1)決済コストと時間の圧縮
現行の国内銀行振込は、金額・タイミング・手数料の点で制約が存在する。ステーブルコイン決済では、ブロックチェーン上で資産が直接移転するため、原理的には24時間365日、低コストでの即時決済が可能だ。特に国際送金においては、従来のSWIFT経由では数日かかっていた処理が大幅に短縮される可能性がある。企業が抱える資金繰り上の「時間の摩擦」を軽減するインフラとなりうる。
(2)法人の資金活用の新たな選択肢(レンディング)
SBI VCトレードは保有JPYSCを貸し出して運用できるレンディングサービスを近日中に開始する予定だ。当面使わない事業資金をJPYSCとして運用に回すという選択肢は、超低金利環境下で法人財務担当者の関心を集める可能性がある。ただし具体的な利回りや条件、リスク設計の詳細は現時点では未公表であり、実際のサービス内容については今後の情報公開を待つ必要がある。
(3)将来的な小口・消費者決済への展開
各社の構想にはQRコード決済との連携を通じた、飲食店や小売店での利用も含まれている。現時点では法人・機関投資家向けに特化した設計だが、将来的には個人の日常決済へ広がる可能性もある。
期待が高まる一方で、現時点での制約も率直に整理しておく必要がある。
JPYSCのパブリックブロックチェーンへの展開は、規制・税務面の明確化を待っている段階だ。現在はSBI VCトレードの口座内に限定された先行提供であり、一般企業が自社の決済インフラとして全面導入するまでには実務的な壁がある。マネーロンダリング対策(AML)やコンプライアンス体制の整備も引き続き重要な課題だ。