デジタル庁は制度上、複数クラウドの選択を可能にし、クラウド間のデータ移動をしやすくする設計を目指すとしており、さくらのクラウドの認定はその一環と位置づけられる。実際、2026年4月時点で認定サービスは5つに増え、選択肢自体は着実に広がっている。
ただし、選択肢が用意されることと、実際に分散が進むことは別の問題だ。前出の小平氏はこう指摘する。
「制度としてのマルチクラウド化と、現場が実際にAWS以外を選ぶかどうかは切り離して考える必要があります。マルチクラウドは技術的には可能ですが、人材、運用体制、SIerの対応力まで含めると現場ではAWSが最も選びやすい状況が続いています。制度だけでなく、調達や教育、人材育成まで含めた政策が必要です。国産クラウドの技術要件充足や、Azure・Google Cloudの活用を後押しする政策的なインセンティブがなければ、実務上の一強構造は当面変わらないでしょう」
ガバメントクラウドがもたらすコスト削減や運用効率化、セキュリティ水準の向上というメリットは大きく、AWSの技術力と実績がそれを支えてきたことも事実である。この構図そのものを頭ごなしに否定するのは適切ではない。
一方で、国の情報インフラの85%前後が一つの外国企業に集中している現状は、平時には見えにくいが、大規模障害や地政学的な緊張が生じた際に一気に顕在化するリスクをはらんでいる。過去に起きたAWSの大規模障害や、自治体側から相次いだ運用コスト増の指摘は、その予兆と読むこともできるだろう。
コスト削減と効率化のためにAWSを積極的に活用すること自体は合理的な選択だ。しかし、有事に備えた「代替手段」を持たないまま一極集中を進めることは、国家の情報インフラという公共財の管理として望ましい姿とは言い難い。利便性と、自国のデータを自国でコントロールする「デジタル主権」との間で、政府がどこまで実効性のあるバランスを取れるか。ガバメントクラウドの真価が問われるのは、まさにこれからだといえる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=小平貴裕/ITジャーナリスト)
【用語解説】
・ガバメントクラウド:デジタル庁が整備する、中央省庁・地方自治体が共通利用するクラウド基盤。
・ベンダーロックイン:特定のクラウド事業者のサービスに最適化した結果、他社への乗り換えが技術的・コスト的に困難になる状態。
・CLOUD Act:米国企業が管理するデータについて、保存場所を問わず米当局が捜査目的で開示請求できることを定めた米国の法律。
・ISMAP:政府情報システムで利用するクラウドサービスの安全性を評価・登録する制度(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)。