Supreme Classの価格の妥当性を測るうえで参考になるのが、競合する航空機の上位クラスとの比較だ。
羽田〜伊丹間の運賃を例に取ると、JALのファーストクラスは普通運賃に1万円前後を上乗せした3万5000円台、ANAのプレミアムクラスも3万8000円前後とされる(時期や予約状況により変動する)。新幹線のSupreme Classの4万2390円〜6万790円という価格は、単純な運賃比較では航空機の上位クラスを上回る。
しかし、両者を単なる「移動費」として比較するのは一面的だ。航空機を利用する場合、保安検査や搭乗手続きにかかる時間、離着陸時の電子機器利用制限などが発生し、都心のオフィスから空港までのアクセス時間も含めれば、実質的な移動時間はさらに延びる。対して新幹線は都心のターミナル駅から乗車でき、乗車直後から新大阪到着まで、区切られた個室空間の中でWeb会議や機密資料の閲覧を継続できる。Supreme Classには専用Wi-Fi、個別に調整可能な照明・空調、ウェルカムドリンクなども用意されており、鍵付きの個室という性質上、画面の盗み見(いわゆるショルダーハッキング)対策としても機能する。
つまりSupreme Classは、単なる移動手段としてではなく、「約2〜3時間、外部から遮断された可動式の会議室・執務室を借りる」というサービスとして捉えると評価が変わってくる。移動時間そのものに稼働価値を見出せるビジネスパーソンにとっては、6万円という価格も「時間単価」で見れば十分に見合う投資となり得る。
「経営層や専門職にとって、移動中の2時間半をどう使うかは生産性に直結する問題だ。情報漏洩リスクを避けながら業務を継続できる空間に対価を払うという発想は、すでに一部の富裕層や企業では当たり前になりつつある」(同)
実は、新幹線に個室が設定されるのは今回が初めてではない。1985年に登場した2階建て車両を持つ100系新幹線には、当時「個室」が設定されており、一部のビジネスパーソンや富裕層に利用されていた。しかし100系は、より高速な300系「のぞみ」の登場や車両の軽量化・定員確保の優先といった事情から徐々に運用を縮小し、2003年に完全引退。個室サービスもその歴史に幕を閉じた。
昭和末期からバブル期にかけての個室が「ステータスや贅沢さ、くつろぎ」を主眼としたサービスであったのに対し、令和のSupreme Classが打ち出すのは「情報漏洩リスクの回避」「移動中のオンライン会議」「生産性の維持」といった、実務上のニーズに根差した価値だ。同じ「個室」という形態でありながら、求められる役割は約20年の時を経て大きく様変わりしている。
また、こうした特殊な座席を機動的に販売できる背景には、予約システムの進化もある。スマートEXやエクスプレス予約といったデジタル予約基盤が普及したことで、限られた個室の座席でも需要に応じた柔軟な販売・在庫管理が可能になった。かつて紙の切符やみどりの窓口が中心だった時代には難しかった、こうした「少数・高単価」の座席運用が現実的な選択肢となった点も、今回の施策を後押ししていると考えられる。
Supreme Classの導入は、単なる贅沢なサービスの追加ではなく、人口減少下で輸送量の拡大が見込みにくくなったJR東海・JR西日本が、収益構造そのものを見直す取り組みの一環と位置づけられる。そしてその価格設定が成立する背景には、「移動時間を耐える時間」ではなく「価値を生み出す時間」として捉えるビジネスパーソンの存在がある。
現時点では1日あたり上下合わせて12本という限定的な運行本数からのスタートであり、この座席が実際にどの程度の需要を集めるかは、10月の運行開始後の実績を見なければ判断できない。ただし、2027年度には半個室タイプの「Seat」も追加投入される予定であり、鉄道各社が座席の高付加価値化・多様化を進める流れは、当面続いていくとみられる。日本の交通インフラにおいて「移動」がどこまで「付加価値サービス」として再定義されていくのか、今後の推移が注目される。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩田敏正/交通政策研究所)