●この記事のポイント
東京電力の2026年4〜6月期は柏崎刈羽6号機再稼働(470億円の増益効果)にもかかわらず経常利益89%減の114億円に。安全対策費1兆円超、電力自由化による顧客流出、福島デブリ取り出し費用9138億円の特別損失など、構造的要因を決算データで分析する。
東京電力ホールディングス(HD)が2026年7月29日に発表した2026年4〜6月期の連結決算は、経常利益が前年同期比89%減の114億円にとどまった。4月に営業運転を再開した柏崎刈羽原子力発電所6号機(新潟県)が470億円の増益効果をもたらしたにもかかわらず、である。純損益は97億円の赤字(前年同期は特別損失計上により8576億円の赤字)と、赤字幅そのものは大きく縮小したが、「原発が再稼働すれば東電の経営は上向く」という長年語られてきたシナリオが、単純には成立していない実態が改めて浮き�彫りになった。
なぜ、看板の原発が動いても業績は力強く回復しないのか。決算データと公的統計をもとに、その構造的な背景を整理する。
●目次
東電HDによれば、柏崎刈羽6号機の再稼働による収支改善効果は約470億円にのぼった。これは単体で見れば決して小さい数字ではない。しかし電力販売量の減少と燃料価格の高騰がこれを相殺し、経常利益は前年同期の約9分の1にまで落ち込んだ。
一方、2025年度(2025年4月〜2026年3月)通期の決算を見ると、経常利益は前期比64.0%増の4173億円と、実は大きく改善していた。売上高は電力販売量の減少により前期比7.1%減の6兆3285億円にとどまったが、燃料費調整制度の「期ずれ差益」が好転したことなどが寄与した。
問題は最終損益だ。通期の親会社株主に帰属する当期純損益は4542億円の赤字(前期は1612億円の黒字)となった。これは、福島第一原子力発電所の燃料デブリ取り出しなどに関連する「災害特別損失」9138億円と、原子力損害賠償費827億円という特別損失が、本業の改善分を大きく上回ったためである。裏を返せば、東電の収益構造は「本業(経常損益)は緩やかに改善しつつあるが、福島対応という別次元の巨額コストが最終利益を継続的に押し下げる」という二層構造になっている。原発再稼働による増益効果は、この構造そのものを解消する規模には到底至っていない。
かつて原発再稼働は、東電にとって「1基あたり年間数百億〜900億円規模の収支改善」をもたらす切り札とされてきた。しかし、その前提となる安全対策コストが震災後に大きく膨らんだことが、収益構造を根本から変えている。
柏崎刈羽原発の安全対策費は、2013年時点では約700億円と見積もられていたが、新規制基準への対応が進むにつれて2016年には約6800億円、2019年に判明した金額では約1兆1690億円へと、当初計画の約17倍に膨張した。航空機テロなどに備える「特定重大事故等対処施設」の建設費や、敷地内の液状化・火災対策の強化が主な要因である。これらの投資は減価償却費や維持管理費として今後も長期にわたり固定費化し、再稼働による燃料費削減効果(火力発電の代替効果)の一部を確実に押し下げる。
さらに東電の場合、福島第一原発の廃炉・賠償という他の電力会社にはない特殊要因が重なる。燃料デブリの取り出しは「過去に前例のない取り組み」(東電の開示資料)であり、費用の見積もり自体が不確実性を伴う。2025年度に計上された9138億円の特別損失も、その見積もり困難性ゆえに変動しうる性質のものだ。原発が生み出す利益と、原発事故が生み出すコストが同じ会社の中でせめぎ合っている――これが東電の収益がなかなか安定しない最大の理由である。