「電力会社にとって原発の再稼働は本来、燃料費削減による収益改善効果が大きい打ち手です。しかし東電の場合、安全対策コストの膨張と福島対応費用という二つの重しが同時に乗っているのです。他の原発を持つ電力会社と単純比較できない特殊な収益構造になっている点は、投資家も冷静に見ておく必要があるでしょう」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)
収益力を左右するもう一つの構造要因が、2016年の電力小売全面自由化以降に進んだ顧客基盤の変化である。
資源エネルギー庁や日本経済新聞の報道によれば、2025年7月時点で新電力を含む電力小売事業者は773社・団体にのぼり、新電力の全国販売電力量シェアはおおむね2割程度で推移している。このシェアは2021年8月に22.6%まで拡大した後、2022年のロシアによるウクライナ侵攻に伴う燃料価格高騰を受けて新電力各社の採算が悪化し、一時縮小に転じた。帝国データバンクの調査では、2024年3月時点で新電力706社のうち32社が倒産・廃業、87社が事業撤退、69社が契約停止に追い込まれたと報告されている。その後、2024〜2025年にかけてシェアは底打ちし、緩やかな回復基調にあるとされる。
この変動が示すのは、電力小売市場が単純な「大手電力優位」にも「新電力優位」にも収斂しない、流動的な競争構造になっているという事実だ。都市ガス大手や通信大手など異業種からの参入も相次ぎ、セット割引などで顧客を囲い込む動きが常態化している。一度他社のセット割プランに移行した需要家を、電気料金の単純比較だけで東電エリアに呼び戻すことは容易ではない。加えて東電は、賠償・廃炉費用を事業の中で確保する必要があるため、価格競争において収益を犠牲にした値下げ攻勢を仕掛けにくい立場にある。原発再稼働によるコスト改善が需要家に還元されたとしても、それが直接的な顧客奪還につながるかどうかは別問題である。
ここで注目すべきは、東電を取り巻く提携戦略の現状だ。東電は2026年1月26日、筆頭株主である原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)と共同で新たな再建計画(第5次総合特別事業計画)を策定し、外部資本の受け入れを含む提携戦略を経営再建の柱に据えた。小早川智明社長は同月、エネルギー業界内の「水平」提携に限らず、電機や通信など電力需要家を含む「垂直」提携も視野に入れる考えを示している。
この方針を受けて2026年2月から3月末まで実施された提携先の公募には、ソフトバンクグループ、東京ガス、米ブラックストーン・グループ、米KKR、米ベインキャピタル、日本産業パートナーズ(JIP)、産業革新投資機構(JIC)など、国内外の数十社が応募したと報じられている。データセンター向けの電力需要拡大を見据えた成長投資(JERAを含め10年で11兆円規模)の原資確保が狙いであり、6月時点では複数陣営との協議が本格化しているとされる。
つまり、事実関係としては「他社が提携そのものを躊躇している」わけではない。むしろ関心を示す企業は多い。焦点は交渉のテーブルに着くかどうかではなく、「どのような条件で、どの程度の規模の資本を、どの事業に受け入れるか」という条件闘争の段階に移っている。そしてここで効いてくるのが、まさに本業の収益力の弱さである。日本経済新聞は2026年7月29日付の報道で、電力販売の苦戦が続く状況が資本提携戦略にとって「逆風」になりうると指摘している。出資を検討する企業や投資ファンドにとって、本業の収益基盤が不安定な相手への出資は、当然ながら評価額や出資条件の厳格化につながりやすい。原発再稼働による増益効果が確認できなければ、東電が望む形でのバリュエーション(企業価値評価)を提携先に認めさせることは難しくなる。