三菱電機4700人、パナソニック1万2千人…黒字リストラ時代のミドル・シニア採用

「黒字リストラは、企業が『今の人員構成のままでは5年後の事業を支えられない』という危機感から逆算して行う先手の打ち手です。問題は、削減された人材の再就職支援やスキルの再定義が、企業側の想定ほど簡単には進まないという点にあります」(大手人材紹介会社でミドル層の転職支援に携わるキャリアアドバイザー)

放出された人材は、実際どこへ向かっているのか

 黒字リストラの報道では「優秀な人材が市場に放出される」という論調がしばしば見られる。しかし実態はそう単純ではない。あるメディアの取材では、大手企業に34年間勤務し57歳で早期退職した男性が、その後100社近くに応募しながら不採用が続いたという事例が報じられている。この男性自身も、自らの退職を「実質的な黒字リストラだった」と受け止めている。

 長年一つの企業に勤めた人材は、その企業固有の業務プロセスやカルチャーに最適化されたスキルセットを持っていることが多い。転職市場で評価されるのは、そうした「企業内での実績」そのものではなく、他社でも再現可能な「ポータブルスキル」だ。ここにミスマッチの根がある。「良い人材が市場に出てくるはずだ」という期待だけで採用に臨むと、受け入れ側も採用後の活躍イメージを描けないまま、書類上の経歴だけで判断してしまいがちだ。

受け皿になれる企業・なれない企業を分けるもの

 取材や各種データを総合すると、ミドル・シニア人材の受け入れに苦戦する企業には共通パターンがある。募集ポジションの職務内容が曖昧なまま「経験者採用」とだけ掲げている、評価基準が新卒採用時と同様のポテンシャル評価に依存している、入社後のオンボーディング設計がなく即戦力として現場に放り込まれる ―― こうした状態では、せっかく採用しても早期離脱や本人・現場双方の不満につながりやすい。

 一方、受け入れに成功している企業に共通するのは、職務記述書(ジョブディスクリプション)を具体的なレベルまで明文化し、「何を任せるか」を採用前に定義していることだ。前述した富士通やNECの専門人材処遇制度も、突き詰めれば「職務に応じて処遇を決める」という設計思想の表れであり、新卒・中途を問わず、職務起点で人材を評価する体制が土台にある。ミドル・シニア採用の成否は、採用したい「人物像」ではなく、任せたい「職務」をどれだけ具体的に描けるかにかかっている。

チェックポイント:受け皿力を測る5つの視点
・募集ポジションの職務内容を、業務レベルまで言語化できているか
・評価基準は「経験年数」ではなく「専門性・成果」で設計されているか
・処遇テーブルは新卒起点ではなく、職務起点で組まれているか
・入社後60〜90日のオンボーディング計画があるか
・現場マネージャーは、ポテンシャル評価に依存せず即戦力採用の面接ができているか

 この5項目のうち、いくつが自社で満たされているだろうか。満たされていない項目が多いほど、市場に供給されるミドル・シニア人材を「採る」ことはできても、「活かす」ことは難しいと考えられる。

 黒字リストラは、一過性の話題ではなく、事業構造の転換に伴う構造的な現象として、今後も製造業を中心に一定期間続く可能性が高い。東京商工リサーチも、事業計画や人員構成の見直しによる募集の動きが今後さらに広がるとの見方を示している。採用・人事責任者にとって重要なのは、この現象を「対岸の火事」としてではなく、自社の採用設計を見直す機会として捉えることだ。放出される人材の「量」に注目するだけでなく、自社がその人材を「活かせる体制」になっているかどうかを、今一度点検する価値があるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)