「タピオカというプロダクトカテゴリーではなく、”お茶を主役にした嗜好飲料”という上位概念で自社を再定義できたことが、ブーム終焉後も生き残れた最大の要因でしょう。単一商品への依存を断ち切り、コーヒーが独占していた”日常のテイクアウト飲料”という巨大な需要を横から狙えたことは、カテゴリー戦略として非常に示唆に富みます」(外食産業コンサルタントの杉田誠氏)
お茶ドリンクの最大の特徴であり、同時に最大の弱点でもあったのが「カスタマイズの複雑さ」だ。茶葉の種類、甘さの度合い、氷の量、トッピングの組み合わせ——選択肢の多さは魅力である一方、対面でのレジ注文では回転率を落とし、行列や接客の遅延、さらには「注文に手間取って後ろの客を待たせる心理的なハードル」を生む要因にもなっていた。
ゴンチャはこの弱点を、LINE公式アカウントを活用したモバイルオーダーの導入によって強みへと転換させた。2022年から段階的に展開されたこの仕組みでは、顧客はスマートフォンの画面上でじっくりと自分好みのカスタマイズを検討できる。レジ前で急かされることなく、むしろ「今日はどんな組み合わせにしようか」と選ぶこと自体を楽しめる設計になっている点が特徴だ。
この仕組みがもたらす効果は一つではない。第一に、店舗側では注文データが自動的にキッチンへ連携されるため、聞き間違いによるオーダーミスが減り、レジ対応の負荷が下がる。第二に、顧客がじっくり選べるインターフェースは、トッピングやサイズアップといった追加オプションへの心理的抵抗を下げ、結果として自然な客単価の向上につながっているとみられる。第三に、2025年5月に開始した公式アプリ「My Gong cha」は、初日で約20万人、3ヶ月で150万人、2026年1月時点で約260万人の会員登録を集めており、購買データを活用したクーポン配信やスタンプ施策によって、来店頻度を高める仕組みとして機能している。
「複雑な注文プロセスをネガティブに捉えるか、”パーソナライズ体験”としてポジティブに転換するかは、DX投資の設計思想の差です。ゴンチャの場合、モバイルオーダーが単なる省人化ツールにとどまらず、顧客が”自分だけの一杯”を作る楽しさを演出する接客インターフェースとして機能している点が秀逸です。これは飲食業に限らず、カスタマイズ性の高い商品を扱う小売・サービス業全般に応用できる発想でしょう」(同)
ゴンチャの成長は感覚的な評価にとどまらない。日本国内の店舗数は2026年1月末時点で220店舗、年間来店客数は2025年に約4000万人に達しており、これはタピオカブーム最盛期と比較しても客数ベースで大きく上回る水準だとされる。フランチャイズ募集情報では、リピート率は約74%という高水準が示されている。
出店戦略の面でも独自性がある。ゴンチャは厨房設備を大きく必要としない業態特性を生かし、10坪程度からの小型出店が可能で、大型客席を構えるコーヒーチェーンに比べてテイクアウト比率が高く、家賃負担の重い一等地の路面店だけに依存しない展開ができる。近年ではオフィスビルの上層階など、従来型カフェが敬遠しがちな「空中階」でも高い売上を上げる事例が出ているという。省スペース・高回転型のオペレーションは、FLコスト(食材費・人件費)や賃料負担のコントロールという意味でも、外食業態としての収益構造の強さにつながっている。
この成長力は、資本市場からも高く評価されている。2026年8月、米投資ファンドのベインキャピタルが、ゴンチャの世界展開を統括するゴンチャグローバル(ロンドン)を1000億円超で買収することが明らかになった。取引は2026年第4四半期の完了が見込まれており、報道では、世界の店舗網の中でも日本事業が「稼ぎ頭」として評価されている点が指摘されている。ブーム後も安定した成長を続けてきた実績が、グローバルな投資判断にも直結した形だ。