ジェットスター・ジャパンは、成田拠点の国内線ネットワークとカンタスグループの集客力を軸に「広域カバー」戦略を取ってきた。2024年6月期には純利益5億700万円を計上し5年ぶりの黒字化を達成、営業収益は前期比40.0%増の707億7,200万円と過去最高を記録した。搭乗率は86.4%(前期比7.3ポイント上昇)、旅客数は566万2,000人(同22.6%増)に伸び、関西空港のグランドハンドリング自営化によるコスト構造の改善と、成田-上海線再開や関西-台北線再開といった訪日需要の取り込みが黒字化の背景にある。もっとも同社は現在、大きな転機を迎えている。2026年2月、カンタス航空は保有する全株式を日本政策投資銀行に譲渡すると発表し、東京センチュリーとともにJAL主導の資本体制へ移行することが決まった。2026年10月には新ブランドが発表される予定で、日豪合弁という創業以来の枠組みそのものが変わろうとしている。運航計画に変更はないとされるが、資本構成の転換が今後の路線戦略にどう影響するかは注視が必要だろう。
後発参入や新規ブランドの立ち上げで苦戦する企業には、共通する構造的課題が見て取れる。象徴的な事例が、ANAホールディングスが展開してきた中距離国際線ブランド「AirJapan」である。
AirJapanは2020年10月に構想が公表され、2024年2月9日の成田-バンコク線就航でスタートした。ANAとピーチに次ぐ「第3ブランド」として、LCCとFSCのサービスを融合する「ハイブリッドエアライン」を掲げた意欲的な取り組みだったが、就航直後から機材トラブルに直面する。2024年2月22日に予定していたソウル線初便は、前便のボーイング787-8で主脚の不具合が見つかり部品交換が必要となったため欠航し、就航は2日遅れとなった。タイの民間航空局からは予備機を持たない1機運用の体制について緊急時対応計画の整備と増機を強く求められる場面もあった。
そして2025年10月、ANAホールディングスはAirJapanを2026年3月28日(冬ダイヤ最終日)をもって運航終了させる方針を明らかにした。就航からわずか2年余りでの撤退である。同社の説明によれば、ロシア上空の飛行回避によって欧州便の所要時間が従来より約3割延びたことで機材・乗員の需要が全社的に逼迫していたことに加え、787の新造機納入遅延やエンジン不具合による稼働機の減少が重なり、「安定運航には4~5機が必要だが、その確保が難しい」状況が続いていた。結果としてANAホールディングスは「マルチブランド戦略」から「ANA・ピーチの2ブランド戦略」へと舵を切り、AirJapanが運用していた787-8・3機と人員をANA本体の国際線に集約する判断を下した。
ここに、躓くLCCが陥りやすい罠が凝縮されている。第一に、親会社の事情による「中途半端なポジショニング」だ。AirJapanはFSCとLCCの中間という差別化を掲げたが、グループ全体の機材繰りに余裕がない中でのスタートは、ブランドの独自性を確立する前に体力を消耗させた。第二に、機材数の少なさによる「バッファの欠如」である。LCCは高稼働が前提のビジネスモデルであるがゆえに、予備機を持たない少数機材での運用は、1機のトラブルが即座に大規模な欠航・遅延につながるリスクを内包する。第三に、片道需要への依存だ。訪日需要に支えられる路線が多い一方、日本人の海外渡航(アウトバウンド)は回復途上にある。日本政府観光局の速報値によれば、2026年1月の日本人出国者数は前年比17.6%増の107万人だったが、これはコロナ前の2019年同月比では約26%少ない水準にとどまる。さらに2026年に入ってからは訪日外国人数も伸び悩んでおり、2026年4月は前年比5.5%減の369万人、1~4月累計でも前年をわずかに下回った。中でも中国からの訪日客は4月時点で前年比56.8%減と大幅に落ち込んでおり、特定市場への依存度が高い路線ほど需要変動の影響を受けやすい構造が浮き彫りになっている。