これに円安と燃料高という外部環境が追い打ちをかける。2026年9~10月発券分の燃油サーチャージは欧米路線でJAL片道5万円、ANA片道5万5,000円と、直前期(7~8月発券分、JAL・ANAともに6万5,000円)からは中東情勢を踏まえた政府の激変緩和措置もあって引き下げられたが、これは2026年6~7月のシンガポール市場のケロシン価格(1バレル132.50ドル)と1ドル161円台という為替水準を基に算定された数字であり、歴史的に見れば依然として高水準にある。燃料費は航空会社の総コストの25~35%を占めるとされ、機材数に余裕のないLCCほど、このコスト増を吸収する体力を欠きやすい。
「AirJapanのケースが示すのは、”良いコンセプト”と”実行可能な経営資源”は別物だということだ。差別化戦略そのものは間違っていなくても、グループ内で機材や乗員というリソースの優先順位が下がれば、ブランドは早晩立ち行かなくなる。LCC新規参入の成否は、就航前の機材調達計画とバッファ設計で7割方決まると言ってよい」(同)
ここまで見てきた事例は、航空業界に限らない普遍的な経営インサイトを含んでいる。
第一に、価格競争から「価値の再定義」への転換だ。ピーチもZIPAIRも、突き詰めれば「ただ安い」ことを競っているわけではない。ピーチは「旅への心理的ハードルを下げる体験」を、ZIPAIRは「フルサービスと格安の中間にある新しい価値基準」を提案しており、価格はその価値を成立させるための一要素に過ぎない。自社の商品・サービスを語る際、価格だけを軸にしていないか、事業者は一度立ち止まって点検する価値があるだろう。
第二に、スモールスタート時における「冗長性(バッファ)」の設計である。資産を限界まで稼働させて収益性を高めるビジネスモデルほど、初期段階でのトラブル発生時に耐えうる「撤退・リカバリー設計」があらかじめ組み込まれているかどうかが、事業の存続を左右する。AirJapanの事例は、意欲的なコンセプトであっても、それを支える経営資源の余白がなければ、市場からの評価を得る前に撤退を迫られかねないことを示している。新規事業の立ち上げに際しては、成長シナリオだけでなく、想定外の事態が起きた際にどこまで持ちこたえられるかという「守りの設計」を同時に描いておくことが欠かせない。
累計8000万人という数字は、ピーチが14年かけて積み上げてきた顧客との接点の総量であり、一朝一夕に築けるものではない。運賃の安さの先にある「移動体験そのものの価値」をどう設計するか。日本のLCC市場における勝者と苦戦者の分岐点は、突き詰めればそこにあるのではないか。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=中村哲也/航空経営コンサルタント)
【主な参照データ・出典】
ピーチ、累計搭乗者8000万人突破 就航14年で(日本経済新聞)
Peach、累計搭乗者数8,000万人突破&2026年冬ダイヤ全路線の販売開始(sky-budget)
企業情報 Corporate(Peach Aviation公式)
ピーチ、行き先選べない「宿付き旅くじ」 関空発国内ツアー、HISと連携(Aviation Wire)
Zipair Tokyo(Wikipedia英語版)
ジェットスター・ジャパン、5年ぶり黒字 純利益5億円=24年6月期(Aviation Wire)
ジェットスタージャパン、2026年10月にブランド刷新 カンタス航空が全株式を譲渡(sky-budget)
豪カンタス、JAL系LCCジェットスターから撤退 政投銀に全株譲渡(日本経済新聞)
AirJapan(Wikipedia日本語版)
AirJapan、3月で運航終了 ANA便運航に専念、787はエンジン捻出検討(Aviation Wire)
夏の航空券「10万円値上げ」も…三重苦の航空業界、LCC撤退と地方路線縮小(Business Journal)
【2026年9月最新】ANA・JAL燃油サーチャージ一覧|欧米5.5万円・値下げ額を比較(Japan Transportation)
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