(2)「歩留まり改善」の罠——選考通過率の最適化がもたらす弊害
選考通過率や内定承諾率をKPIに据えると、現場や人事は「無難で落としにくい人材」を優先しがちになる。結果として、組織変革を担いうる異能人材や、経験は浅くともポテンシャルの高い人材が選考の過程で弾かれやすくなる。歩留まりの良さは「選考プロセスの効率」を示す指標であって、「採用した人材が事業に貢献するか」とは本来別の問題である。
(3)「採用充足率」の罠——人数の充足と事業貢献の非連動
マイナビの「中途採用状況調査2026年版」によれば、2025年の中途採用充足率は92.9%と前年から27.7ポイントも改善した。人数目標の達成という点では大きな前進だが、採用した人数が計画通りであっても、事業目標(売上・利益)が未達であれば、経営から見た採用活動の価値はゼロに等しい。採用のゴールを「入社」に置いている限り、この非連動は解消されない。
人事の実感値ではなく、CFOや経営陣が採用を「投資」として受け止められる、具体的な計算フレームを提示する。
ステップ1:「隠れコスト」も含めた真の採用投資額を算出する
多くの企業が採用コストとして計上しているのは媒体費や紹介会社への成功報酬(直接コスト)のみだが、実際にはそれ以外のコストも発生している。
真の採用コスト = 直接コスト(媒体費・紹介料・RPO費用)+ 現場人件費(面接対応・オンボーディング工数を時間単価換算したもの)+ 早期離職リスク引当金(過去の離職率をもとに見積もる期待損失額)
マイナビの調査では、中途採用にかかる年間採用費用の合計は1社平均650.6万円(2024年度実績)で、前年から20.9万円増加し、2021年度以降4年連続で増加している。この金額はあくまで媒体費・紹介料などの直接コストが中心であり、現場の面接工数や早期離職の期待損失を加味すれば、実質的な採用投資額はさらに大きくなる可能性が高い。
ステップ2:採用成果(リターン)を定量的にスコア化する
入社後1年目の評価を、たとえば「S(事業を牽引)」「A(期待通りの貢献)」「B/C(未達・早期離職)」の3階層に区分し、各階層が創出したとみなせる年間価値を、年収に対する倍率として仮置きする。倍率の設計は業種・職種によって異なるため、自社の実績データ(過去の高評価者・低評価者の事業インパクト)をもとにカスタマイズする必要がある。
ステップ3:採用ROIを算出する
採用ROI(%)=(採用人材が創出した推定価値 − 真の採用コスト)÷ 真の採用コスト × 100
この考え方は、ISO30414が示す「人的資本ROI(売上高から人件費以外の経費を差し引いた額を人件費で割り、1を引いたもの)」の思想を、採用という個別の投資判断に応用したものだ。ISO30414の枠組み自体に絶対的な目安値はなく、自社の経年推移や同業他社との比較で評価するのが基本とされるが、採用ROIについても同様に、自社のS評価人材・早期離職者それぞれの実績データを蓄積し、相対評価の物差しとして育てていく視点が欠かせない。
重要なのは、単価が高くてもROIが高い人材を採る方が、単価が安くてもROIがマイナス(早期離職)になる人材を採るより、経営的インパクトが大きいという事実を数値で示せる点にある。
「経営会議で人事が語るべきは『いくらで採れたか』ではなく『その投資がいつ・どれだけ回収できるか』です。CFOはコストの多寡そのものより、投資の再現性と回収可能性を見ています」(人事・労務コンサルタントの松本祐樹氏)