BYDの本質を理解する鍵は、その出自にある。1995年に電池メーカーとして創業し、2003年に自動車事業へ参入した経緯を持つBYDは、いわば「完成車メーカーに転身した巨大バッテリー・半導体メーカー」だ。グループ内には比亜迪半導体(BYDセミコンダクター)を抱え、パワー半導体であるIGBTを早くから内製化してきたほか、独自のリン酸鉄リチウムイオン電池「ブレードバッテリー」も自社開発・自社生産している。
モーター、バッテリー、制御用ICといった電動車の中核部品を自社グループ内で開発・内製化する体制は、一般的な「川上から川下へ」の垂直統合とは逆に、部品・素材メーカーが完成車メーカーへと領域を広げた「逆垂直統合」と呼べる。半導体不足のような外部ショックの影響を受けにくく、部品調達コストや在庫リスクを抑えられるのが強みだ。
これに対し、日本の自動車産業は系列の一次請け(Tier1)、二次請け(Tier2)へと連なる下請けピラミッド構造を基盤としてきた。品質管理や擦り合わせ型のものづくりに強みを発揮する一方、階層を経るごとに調整コストと時間がかかりやすく、新型バッテリーや制御ソフトの改良を即座に車両へ反映する「タイム・ツー・マーケット」の面では不利に働きやすい。
「BYDの強さは技術力そのものより、意思決定と実装のスピードにある。内製化によって『どこで何が起きているか』を自社で把握できるため、需要変化への反応速度が桁違いに速い。日本のサプライチェーンも品質面では引けを取らないが、変化への反応速度という一点で差がついている」(同)
BYDは2026年8月、バッテリー式電気自動車(BEV)の月間販売で初めて25万台の大台を突破した(25万6230台、前年同月比28.4%増)。プラグインハイブリッド車(PHEV)も17万7154台(同3.1%増)と底堅く、車種構成の調整や生産ラインの改修による短期的な生産の凹凸を、月単位でフル稼働・輸出攻勢へと復帰させる実行力がうかがえる。
日本メーカーにおいても、系列の部品メーカーや協力会社との丁寧な合意形成は品質と安全性を支える文化的資産である。ただし、市場環境が急変する局面では、複数の関連会社をまたぐ調整や社内稟議に要する時間が、需要変化への即応力という点でボトルネックになりうることも事実として指摘されている。どちらが優れているかという単純な優劣ではなく、平時の強みが有事には弱みに転じうるという構造上のトレードオフとして捉える必要がある。
欧米では中国製EVへの警戒から保護主義的な措置が強化されている。EUは中国製EVに対し基本関税10%に最大35.3%を上乗せし、最高45.3%の追加関税を課している。BYDをはじめとする中国メーカーは、追加関税の対象外となるPHEVへのシフトや、現地の購入補助金(ドイツでは最大96万円規模)の活用といった形でこれに対応しつつ、より根本的な打ち手として現地生産の立ち上げを急いでいる。
タイ工場は2024年7月に完工し東南アジア向け供給拠点となったほか、欧州初の乗用車工場となるハンガリー工場の建設を進め、ブラジルでは着工からわずか15カ月という早さで年産15万台規模の新工場を稼働させた。単なる輸出攻勢にとどまらず、関税や為替変動の影響を受けにくい現地生産体制を各地域で並行して立ち上げるスピード感が、日本車が長年強固な基盤を築いてきた東南アジアや南米市場においても、低価格帯EVと充電インフラをセットで提案する新たな競争軸を持ち込みつつある。