生成AIの活用によって返信率が実際に改善した事例も報告されている。採用支援を手がける株式会社キャスターが公開した事例では、組み込みソフトウェアエンジニアの採用において、当初スカウトへの返信がゼロという状態から、AIを「自社専用のアシスタント」として運用する体制に切り替えた結果、3カ月で返信率13.3%まで改善したという(HR NOTE、2025年10月掲載)。同社は「AIを調べ物の道具にとどめず、自社の状況を理解したアシスタントに進化させたことが鍵だった」と振り返っている。
内製化の経済合理性も無視できない。採用代行(RPO)の費用相場は、342人を対象にした調査(2025年11〜12月実施)によると月額料金の最多価格帯は10万〜20万円台で、中央値は40万〜60万円に達する。一方、ダイレクトリクルーティングによる採用単価は平均52.4万円程度とされ、人材紹介(平均133万円前後)に比べて低コストな手法だ。スカウト文面の設計・分析工程を外部委託からAI活用の内製へ切り替えられれば、コスト構造そのものを見直す余地は小さくない。
もっとも、内製化がすべての企業にとって最適とは限らない。「送信数を絞り、一通あたりの解像度を上げる運用は、採用担当者の工数を食う。人員が薄い企業では、初期の型づくりだけ外部の知見を借りるハイブリッド運用が現実的でしょう」と、あるSaaS企業で採用責任者を務めるB氏は話す。量を追う運用から質を追う運用への転換は、体制と時間の両面での投資を伴う判断でもある。
生成AIの普及で「スカウトを書く」というタスクのコストはほぼゼロに近づいた。誰もが同じツールを使える以上、文章そのものの巧拙で差がつく時代は終わりつつある。だからこそ、量が飽和した先で最後のアドバンテージになるのは、候補者と自社を高い解像度で結びつける分析力と、そこに人が最後に注ぐ熱量の掛け合わせだろう。
これは採用担当者にとって、必ずしも歓迎すべき変化ばかりではない。AIが「作業」を肩代わりしてくれる分、担当者自身には事業への理解や候補者への想像力といった、これまで以上に高い解像度が求められるようになるからだ。皮肉にも、AIが浸透すればするほど、採用の現場に立つ人間の力量がむき出しになる。スカウト文面をAIに書かせること自体は、もはや競争優位でも何でもない。問われているのは、その手前にある「誰に、何を、なぜ届けるか」という設計の精度である。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=松本祐樹/人事・労務コンサルタント)
【主な参照データ・出典】
スカウト返信率データ完全公開【2025年版】
ダイレクトリクルーティング市場規模(矢野経済研究所データ引用)
野村総合研究所「IT活用実態調査(2025年)」生成AI導入率
採用代行(RPO)の費用相場は月額10〜20万円(342人調査)
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