月7万円軽く、総額1900万円重く…元金を最後まで返さない「2階建て住宅ローン」

 リスクは主に三つある。

 一つ目は期日の一括返済そのもの。原資は売却、退職金、運用資産、借り換えのいずれかになるが、35年後の相場も金融環境も誰にも読めない。年齢の問題もある。45歳で35年ローンを組めば、期日は80歳だ。その年齢で新たに借り換えを引き受ける金融機関は限られ、実質的な選択肢は売却か手元資金に絞られる。

 二つ目は担保割れだ。元金が減りにくい分、LTV(担保評価に対する借入比率)が高止まりしやすい。日本の住宅ローンは原則としてリコース型で、売却額が残債を下回れば差額は借り手の債務として残る。

 三つ目は金利上昇への感応度である。日本銀行は2026年9月18日の金融政策決定会合で政策金利を1.25%程度に引き上げた。1995年以来の水準で、6月の1.0%から3カ月での追加利上げだった。前出の試算で、5年経過時点で金利が1%上がったとすると、毎月返済額は通常型が約14.7%増えるのに対し、2階建ては約29%増える。据え置いた5000万円にも、上がった金利がそのまま乗るためだ。

 なお、同行の解説によれば、住宅ローン控除の対象となるのは毎月返済部分のみとされている。税制面の効果も割り引いて見る必要がある。

「審査の目線で言えば、この商品は“返済能力”より“出口の確度”を見るローンです。毎月の返済比率が下がって見えても、期日の5000万円をどう返すかという問いは消えていません。金利が上がると2階部分の利払いが真っ先に効いてくる点は、変動金利を選ぶ人ほど意識しておくべきでしょう」(元メガバンク住宅ローン審査担当・不動産金融コンサルタント、ファイナンシャルプランナーの田中真一氏)

金融機関とデベロッパーの計算

 貸し手側から見れば、従来は審査で届かなかった高所得層の需要を取り込める。金利上乗せと手数料で収益性も確保しやすい。先の試算では、元金が減らない2階部分だけで35年間に約2710万円の利息が発生する。元金が長く残るほど、貸し手の利息収入は厚くなる構造だ。デベロッパーにとっても、1億〜2億円帯の販売ペースを維持する援軍になりうる。

 ただし、回収の最終局面は担保処分に依存する度合いが高くなる。だからこそ対象を都市部の高評価マンションに限り、年収要件を1000万円以上に置いたのだろう。流動性の高い担保と、返済余力のある借り手。この二つを前提にしなければ成り立たない設計である。

「日本版サブプライム」との指摘もあるが、構図はかなり異なる。サブプライムローンは信用力の低い層への貸出と、その債権の証券化が連鎖したことで問題が広がった。現行の商品はむしろ高属性層に限った設計だ。問われるのは借り手の信用力より、都心マンションの価格が長期的に維持されるかどうかという、担保価値の前提のほうだろう。

「残価を保証する商品ではない以上、価格下落のリスクは借り手が負います。立地とLTVの管理が甘くなれば、地域金融機関が追随した場合にリスクが偏在する懸念はある。ただ、日銀の金融システムレポート(2026年4月)でも住宅ローン延滞率に大きな変化はみられないとされており、現時点で過度に警戒する段階ではありません」(同)

合理的に使える人、使うべきでない人

 使いどころは大きく二つに分かれる。

 一つは売却を前提にした保有だ。10年前後で住み替える計画なら、毎月のキャッシュアウトを抑えつつ、売却代金で2階部分を返済する。ただし、先の試算では10年後もなお約8800万円の残高があり、売却価格がそれを上回ることが条件になる。

 もう一つは、返済原資の見通しが立っている層だ。退職金、満期を迎える保険や運用資産、事業承継に伴う資金など、期日の一括返済を裏付ける「出口」を具体的に描ける場合には、資金効率を高める手段になる。