もう一点、募集総額の設定にも注目したい。9,990万円という、1億円に10万円届かない額である。理由を問われる場面ではなかったが、渡辺氏は発表のなかで、こう触れていた。
「今回は未上場企業としてやっているので、上限が一般的には1億円くらいなんです」
金融商品取引法上の開示規制との関係は、発表会では語られていない。この点は、正式な募集資料で確認する必要がある。
前半で解説に立った重松氏は、まず金利環境から語り始めた。
「金利のある世界が20年ぶりに帰ってきていますよね。国債も利回りが4パーセントを超えるとか、今まであまり投資の対象じゃなかった債券が、投資の対象に見えるような世界が来ています」
個人向け社債の平均発行額は2025年までで470億円、100億円未満の発行は過去10年で20件弱(OwnerShip社資料)。発行体は巨大企業に限られてきた。
「従来の個人向け社債は、証券会社が間に入って引き受けるので、手間もリスクも採算も絡んで、発行体はめちゃくちゃ大きい企業だけでした。普通の一般の企業は、機関投資家向けの社債だけ発行して、個人向けは発行してこなかったというのが現状だと思っています」
そこに現れたのが、発行体が自ら募集する自己募集型デジタル社債だ。
「証券会社が不要になるので、引受手数料がいらなくなって、少額、小口で発行が可能になります。今まで100万円だった最低購入金額が、1口10万円とか1万円、ロジカルには1,000円でも設計できます」
市場の伸びしろも大きいと、重松氏は言う。
「家計金融資産が2,400兆円ぐらいあって、その半分ぐらいはまだ現金のままです。この中の1パーセントが社債に動くだけで、10兆円以上の可能性があります」
広告会社がなぜ金融に関わるのか。その問いにも自ら答えた。
「この企業が好きだから、この企業が言っている未来が好きだから応援する。それが投資行為の元々の始まりだと思います。社債を買う人も、ファン投資家なんです」
特典の例として挙がったのは、企業のマスコットが誕生日に買ってくれた家族の家へサプライズで訪れる、というものだった。
さらに、自己募集型にも課題が一つあったと、重松氏は明かす。
「1億円の社債を1万円ずつ1万人が買ったとします。その1万人に償還のお金を払う、1万円で5パーセントなら500円分の利息を払う。お金の移動って、細かくなればなるほどネックなんです」
その解決策がステーブルコインということだ。
続いて登壇した渡辺氏は、コストの差を語った。
「今まで銀行送金で数百円かかっていたものが、ブロックチェーン上では0.1円とか0.001円みたいな単位でできるようになります」
構想は利払いの頻度にも及ぶ。
「今回は難しいんですが、2回目、3回目とやっていくと、本当に毎日利息を支払うという形でのステーブルコイン社債をやっていきたいと思っています。スマートコントラクトで、全部自動化できるので」
スマートコントラクトとは、あらかじめ定めた条件に従って処理を自動実行する、ブロックチェーン上のプログラムを指す。今回の狙いが資金調達にないことも、渡辺氏は認めた。
「今回は、資金ニーズというよりも、こういった仕組みを日本でしっかり提供することで、オンチェーン金融に適した法制度や体系の事例を、どんどん作っていきたいというのがモチベーションです」
オンチェーン金融とは、取引や決済をブロックチェーン上で完結させる金融のことだ。集めた資金はJPYSCの普及に使う。日米の違いについても、渡辺氏の認識は明快だった。