「アメリカは、書いていないことをやっていい法体系なので、どんどん新しい事例が出てきます。日本は事例を一つ一つ積み重ねて、既存の法律をオンチェーン金融に適したものに変えていかなければいけません」
利息として受け取るJPYSCは、現時点で自由に動かせる「ブロックチェーン上の円」ではない。渡辺氏自身がその理由を説明した。
「ブロックチェーン上でP2Pで任意に動くと、誰から誰に送られて誰が持っているかを、しかもグローバルになるので、調書として一個一個出せないという問題が今あります。なので、基本的にすべてSBI VCトレードという暗号資産取引所の中で動いている形になります」
調書とは、取引の内容を税務当局に報告する書類である。信託型では受益権が動くたびに提出が求められるが、パブリックチェーン上で利用者同士が自由に送金できれば、その把握は難しくなる。
現状の流通先を踏まえれば、投資家は利息と償還金の受け取りにSBI VCトレードの口座が必要になる可能性がある(購入・受取の条件としての口座開設の要否は、正式な募集ページで要確認)。見通しについて、渡辺氏はこう語る。
「金融庁から来年の税制改正に向けた要望が財務省に出ていて、順当に行けば、来年の4月までには改善されるんじゃないかなと、個人的には思っております。SBIのエコシステムから出せていないのは、時間の問題だろうなと思っています」
SBI側の公式説明はより慎重だ。6月の発表では、パブリックチェーン上の流通は「関係法令・税務実務上の取扱いが整理され次第、監督当局の確認を経て」想定するとされ、現状は外部ウォレットへの出庫もできない。要望は法改正ではなく、法改正は施行ではなく、施行はサービス開始ではない。
発行体はStartale Japan、保証は親会社、利払い通貨の発行はSBI新生信託銀行、技術はStartale Group、流通はSBI VCトレード、事務はオーナーシップ。10万円が1年後に戻るまでに、少なくとも6社が介在する。
証券会社という仲介主体を外しても、金融仲介そのものが消えるわけではない。信託銀行、電子決済手段等取引業者、技術提供会社などに機能が再配置されるのである。いずれかに障害や取引制限が生じれば、利払い・償還の実務に影響が出る可能性がある。
そのうえで、発表会での説明に戻りたい。まず引っかかったのは、クラウドファンディングとの違いを語る場面での、重松氏のこの言葉だった。
「クラファンと違って、ちゃんとした社債ですので、その発行体が倒産しない限り、元本と利息が戻ります」
社債は倒産以外でも債務不履行や支払遅延が起こりうる。発行体は渡辺氏自身が「未上場企業」と説明する会社で、保証を担うのはシンガポールの親会社だ。ソニーグループとSBIグループから今年上半期に100億円程度を調達したという説明は、資金力の傍証にはなっても、信用力を検証できる開示とは別の話である。財務情報の示され方は、募集資料で確認したい。
個人投資家のメリットを挙げる場面でも、温度は同じだった。
「株よりも値動きが小さいというか、社債ですので、ほぼないというようなことも言えます」
仮に中途売却できる流通市場が設けられていないのであれば、「値段が動かない」のではなく、市場価格を観測する場がないということになる。満期まで保有する設計なら、価格変動の小ささと引き換えに、流動性が制限される可能性がある。中途譲渡・換金の条件は、募集資料で確認が必要だ。